【町田市76歳女性刺殺事件:行政の「冷遇」は本当か?孤立と支援の狭間で起きた悲劇】
事件の概要と浮上した「行政への不満」
2025年9月30日午後7時すぎ、町田市のマンションの外階段で、近所に住む秋江千津子さん(76歳)が男に包丁で刺され、尊い命が奪われました。男は秋江さんを刺した後、その場にいた秋江さんの娘さんを襲おうとしましたが、娘さんは無事でした。その後、殺人容疑で逮捕された40歳の男は、「襲いやすそうな人を探して目的もなく歩いていた。両手が買い物袋で塞がっていたので抵抗されなさそうだと思った」と供述しています。
この供述から浮かび上がるのは、力の弱い高齢女性を選び、抵抗できない状況を狙うという卑劣極まりない犯行です。いかなる理由があろうとも、何の罪もない市民を無差別に狙い、命を奪う行為は断じて許されません。
さらに、男は逮捕後の調べに対し、「行政サービスで冷遇された」という趣旨の供述をしています。町田市では男との間で特定できるトラブルは確認できていないとされていますが、この供述は、彼が何らかの「不満」や「怒り」を抱え、その矛先を社会や行政に向けていたことを示唆しています。
「支援の隙間」に落ちる40代の孤立
私たちは日頃から、行き場のない悩みや生活の困難を抱えた方々の相談を受けていますが、容疑者が供述した「行政への不満」の背景には、日本の支援制度の構造的な問題が潜んでいる可能性があります。
現在の行政によるサポート体制は、主に以下の3つの「カテゴリー」に分かれています。
高齢者へのサポート:生活に困窮していなくても、年齢的な問題であれば地域包括支援センターが中心となって支援します。
障害を抱える方へのサポート:障害者手帳を保持しているなど要件を満たせば、役所の障害福祉課が専門的な支援を行います。
貧困者へのサポート:生活保護の申請などで金銭的な困窮があれば、役所の生活福祉課(ケースワーカー)が対応します。
しかし、今回の40歳の容疑者は、これら3つの主要な支援の枠組みから外れていた可能性が高いのです。高齢者には該当せず、障害者手帳を持っていたかは不明、生活困窮者であったとしても、自ら役所に出向かなければ支援は始まりません。
仕事を探すためのハローワークも存在しますが、これも「自ら足を運ぶ」ことが大前提です。深い孤立や精神的な問題を抱え、社会との接点を失いつつある人々にとって、受け身の行政サービスは全く機能しません。
彼は、行政が動いてくれない、自分をサポートしてくれない、という一方的な「被害者意識」を募らせ、その鬱憤を、全く関係のない、そして抵抗力の弱い高齢女性を殺害するという卑劣な行為で晴らそうとしたと推測できます。これは、自分の問題を社会全体、特に弱者にすり替えるという、あまりにも身勝手で恐ろしい行為です。
孤立を防ぎ、悲劇を生まないための社会の役割
このような事件を防ぐためには、「自ら助けを求められない人」、つまり「支援の隙間」に落ちた孤立者をいかにして救うかという社会的な取り組みが急務です。
私たちアイズルームのような民間企業は、行政の縦割り支援からこぼれ落ちた方々の就労支援や居住支援を通じて、彼らの生活を包括的にサポートしています。しかし、全てを民間任せにするのではなく、行政も制度を見直す必要があります。
改善点として、以下の2点が挙げられます。
アウトリーチ(訪問支援)体制の強化:孤立が深まり、精神的な問題を抱える人々に対し、自ら動くのを待つのではなく、行政や専門機関が地域と連携して積極的に訪問し、状況を把握する体制が必要です。
「中間層」のサポート窓口:高齢者や障害者といった明確なカテゴリーに該当しない40~50代の無業者・孤立者を対象とした、生活相談と就労支援をセットで行う包括的な相談窓口の設置が求められます。
どんな理由があろうとも、殺人という行為が何の解決にもならないことは明白です。しかし、真面目に生きている市民の安全を守るため、そして、孤立がもたらす悲劇を繰り返さないために、「問題のある者も救う」という視点が、社会には不可欠です。
私たちアイズルームは、今後も行政の支援が届きにくい方々への就労支援と居住支援を通じたサポートを続けてまいります。この悲劇を教訓に、皆さんと共に、誰もが安心して暮らせる社会の実現に向けて考えていきたいと思っています。