【車椅子利用者の「動けない」を「動ける」に変える!共生社会実現のための設計の肝—最新車椅子・バリアフリースロープ・エレベーターのすべて】
本日のテーマは、私たちが日々直面する課題の象徴ともいえる車椅子です。
公共的な建物や一般のマンションを問わず、車椅子利用者の動線は、その方が社会参加できるかどうかに直結する極めて大切な要素です。オートロックの位置、自動ドアへの連携、そして高額な設備であるエレベーターの設計一つで、「使える」か「使えない」かが決まってしまいます。
例えば、車椅子がまっすぐ入らないエレベーターでは、狭いかごの中で半回転を強いられ、普通には使えません。また、比較的高層でエレベーターに頼るしかない場合、車椅子利用者がエレベーターを占有してしまい、他の利用者に迷惑をかけてしまうといった問題も生じかねません。
建物の構造を考える際、通路からエレベーターへの進入がスムーズであるか、ボタンが適切な位置にあるか、そして乗り降りの際、他の利用者とうまくすれ違えるかといった細部に至るまでの配慮が不可欠となります。
車椅子の種類と最新の動向
車椅子の大きさは多岐にわたり、特に症状が重い方が使用する電動車椅子は機種によりサイズが大きく異なります。ここでは、主要な車椅子の種類と最新の動向について詳しく見ていきましょう。
1. 主な車椅子の種類
種類 特徴 サイズ(標準的な目安)
手動車椅子 利用者自身、または介助者が操作する最も一般的な車椅子。軽量で折りたたみ可能なモデルが多い。 全幅:約60〜65cm、全長:約100〜105cm
自走式 利用者本人が大きなハンドリムを操作して移動するタイプ。 手動車椅子と同様
介助式 介助者が後方から押して移動させるタイプ。ハンドリムがないか、小さめ。 手動車椅子と同様
電動車椅子 モーターとバッテリーで駆動し、ジョイスティックなどで操作する。長距離移動や坂道での利用に適している。 全幅:60〜70cm、全長:100〜120cm超(機種により大きく異なる)
電動カート(シニアカー) 主に高齢者が利用。歩行者に近い速度で走行する三輪・四輪の乗り物。屋内利用は難しい場合が多い。 車椅子よりも大きく、小回りも利きにくい。
2. 電動車椅子のサイズと設計への影響
特に設計で注意が必要なのは、電動車椅子の大きさです。全長が長く、重量も重いため、エレベーターのかごの奥行きや、通路・玄関の回転スペースが手動車椅子と同じ基準では不十分となるケースが多々あります。
また、介助型の電動車椅子や、座位保持装置付きの特殊な車椅子はさらに大きくなるため、建築設計においては、可能な限り最大の車椅子(電動車椅子の中でも大型のもの)を基準とした最大公約数的な設計が求められます。
3. 最新の車椅子事情
近年の車椅子は、単なる移動手段から、利用者の生活の質(QOL)を向上させるハイテクデバイスへと進化しています。
立ち上がり補助機能(起立機能付き車椅子): 座面や背もたれが可動し、立ち上がりをサポートする機能。利用者の目線を上げることで、コミュニケーションを円滑にします。
軽量・高強度素材の採用: カーボンファイバーなどの新素材により、手動車椅子はより軽量になり、持ち運びや操作性が向上しています。
IoT・AI技術の応用: 障害物の自動回避機能や、音声操作、スマートフォンのアプリと連携した操作・診断機能などが開発されつつあります。これにより、より安全で自立的な移動が可能になります。
バリアフリースロープの規格と設計の要点
車椅子の方が十二分に活動できる環境は、ベビーカーを押す方、視覚障害者、足の不自由な高齢者にも優しい、すなわちユニバーサルデザインの基本です。
日本は3人に1人が高齢者となる社会を迎え、車椅子利用者は障害者だけに限らず、高齢により利用する方も増え続けています。段差を改善し、バリアフリーな構造を作ることは、多様な人々が社会参加するための基礎となります。
スロープの規格(国土交通省規定)
車椅子利用者が安全かつ自力で昇降できるよう、建築基準法に基づく高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準(国土交通省)などにより、スロープの傾斜や幅、手すりの設置基準が定められています。
項目 基準(主な規定) 備考
最大傾斜(勾配) 1/12以下が基本原則。 建築基準法関連では、高低差75cm以下の場合に1/8以下が許容されることもありますが、車椅子利用者の自立走行には1/12以下が強く推奨されます。アイズルームでは、特に推奨される基準として1/15以下を目指します。
幅(有効幅員) 120cm以上(両側に手すりがある場合) 車椅子と介助者が並走できる、あるいはエレベーター前などでのすれ違いを考慮した幅が求められます。最低限の基準は90cmですが、安全と利便性から120cm以上が推奨されます。
踊り場 長さ3.0m以内ごとに設置。 連続する傾斜路の途中に踊り場(奥行き150cm以上)を設けることで、休憩や方向転換を可能にします。
手すり 両側に設置。高さは二段(上段:80〜85cm、下段:65〜75cm)が望ましい。 連続する手すりが望ましく、端部の水平な延長も必要です。
アイズルームからの推奨
自力で車椅子を操作する方にとって、傾斜1/12でも上り下りは重労働です。余裕を持った1/15、理想的には1/20程度の緩やかな傾斜で設計することで、利用者だけでなく、ベビーカー利用者や高齢者にとっても圧倒的に安全で優しい環境となります。
エレベーターと車椅子—動線設計の鍵
エレベーターは高額な設備ですが、車椅子利用者の社会参加には欠かせません。限られたスペースと予算の中で、いかに使いやすいエレベーターを配置するかは、コンサルティングの重要なテーマです。
1. かごの寸法と乗降の円滑化
車椅子が「まっすぐ入らない」エレベーターは、かごの奥行きが短く(縦が短く)、幅が広いタイプで、車椅子が方向転換を強いられます。電動車椅子の場合、この方向転換自体が困難になることが少なくありません。
推奨されるかごの寸法: 奥行き(縦)を幅(横)と同じか、それ以上確保し、車椅子がまっすぐ進入・退出できる構造が不可欠です。
最小限の寸法: 一般的には、奥行き135cm以上 × 幅140cm以上(車椅子1台+介助者対応)が推奨されます。大型の電動車椅子を考慮すると、さらに余裕を持たせた設計が望まれます。
2. ボタンと操作パネル
車椅子から手が届きやすいよう、操作盤は低位置(床から85〜100cm程度)に設置する必要があります。また、視覚障害者対応の点字や音声案内も必須です。
3. 動線とすれ違いへの配慮
エレベーターホールは、車椅子の回転スペースと、他の利用者とのすれ違いスペースを確保することが重要です。
エレベーターの扉前: 扉の開閉時に安全に待機でき、他の車椅子や利用者が円滑にすれ違えるよう、150cm×150cm以上のスペースを確保することが望ましいです。
共に生きる未来を創る
私たちが目指すのは、単に基準を満たすことではありません。「全ての人がいきいきと暮らせる社会」、すなわちインクルーシブな世界を構築することです。
車椅子での移動の課題一つをとっても、そこには建築基準、最新技術、人間工学、そして利用者それぞれの生活様式が複雑に絡み合っています。この複雑な課題を解決し、バリアフリーな構造を作ることで、障害のある方の社会参加、ひいては社会全体の活性化が可能となります。
アイズルームは、障害者対応の施設、集合住宅、公共施設、さらには福祉家電製品の選定に至るまで、幅広い場面で専門的な知識と経験をもって、お力になることができます。
\インクルーシブな環境設計はアイズルームにお任せください/
既存の建物のバリア解消、新築設計における動線計画、最新の福祉機器の導入提案など、「車椅子利用者が本当に使いやすい」環境を実現するためには、専門的な知見と多角的な視点が必要です。
「予算内で最高のバリアフリー環境を構築したい」「法的な基準だけでなく、利用者のQOLを最大限に高めたい」とお考えの設計者様、建設業者様、施設管理者様、どうぞお気軽にアイズルームにご相談ください。
私たちは、単なるコンサルティングではなく、貴社・貴施設のビジョンを具現化し、共に共生社会を築くパートナーとして、徹底的にサポートいたします。