【難病患者の雇用促進に関する新たな動き・実雇用率算定への提案と支援現場が抱える懸念】

      

【難病患者の雇用促進に関する新たな動き・実雇用率算定への提案と支援現場が抱える懸念】

50代男性講師が、20代から30代の男女に就労支援研修をしているイメージ写真です。

障害福祉をテーマとしたブログを、アイズルームは毎日配信しております。

アイズルームは中小零細企業の問題解決コンサルタントをしており、クライアントの中には福祉関係事業所、医療クリニック、障害者グループホームなどが多く含まれます。また、企業向けコンサルタントとは別に、障害者・難病患者・高齢者などの居住支援と就労支援を、社会課題解決のため無償ボランティアで行なっております。

今回、難病患者の就労支援という私どもの業務に比較的近いテーマのニュースがありましたので取り上げます。

厚労省、難病患者の雇用促進へ一歩:就労困難性判定による実雇用率算定の提案
厚生労働省は3日、「今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会」を開催し、障害者手帳を所持していない難病患者を、一定の基準で就労困難性を判定し、障害者雇用率の「実雇用率」に算定できるようにすることを提案しました。

現行の障害者雇用促進法において、事業者の雇用義務の対象は原則として手帳所持者に限られています。しかし、難病患者も障害者の定義に含まれ得るため、就労支援の対象とすることがかねてより求められていました。一方で、難病は症状の有無や程度、進行度、治療状況などに個人差が大きく、就労困難性の判断が難しいという課題がありました。

2024年3月の調査研究では、難病患者全体で必ずしも就労困難性が高いわけではないものの、手帳を申請して不認定だった人でも職業生活に一定の制限があることが明らかになっています。

厚労省は、この状況を踏まえ、公正で明確な「就労困難性の判定基準」をさらに検討するとしています。まずは施行日以後の採用者から実雇用率への算定を可能にし、その後の状況を見て雇用義務の対象とするかを検討する方針です。委員からは具体的な判定基準を求める声が上がり、研究会は年末をめどに意見をまとめる予定です。

支援現場からの問題提起:不明確な基準が招く混乱と福祉予算の効率化
難病患者の就労支援に携わるアイズルームとしては、このニュースは大きな関心事であると同時に、いくつかの懸念を抱いております。

1. 「明確な基準」がなければ企業への推薦は困難
難病患者の就労支援を進めるにあたり、企業に安心して雇用してもらうためには、障害者手帳と同等の、客観的かつ明確な基準が不可欠です。

現在、提案されているように「個別の就労困難性」を判定し実雇用率に算定するためには、その判定基準が曖昧であってはなりません。難病という特性上、障害者よりも重い症状を抱える方もいれば、健常者と変わらない方もいるなど、個々の程度評価が非常に難しいのが現実です。基準が不明確なままでは、実際にサポートする側としても企業へ適正に推薦することが難しく、混乱を招くだけでなく、雇用後のミスマッチを引き起こすリスクも高まります。

2. 曖昧な段階での支援拡大に対する疑問
難病患者の方でも、症状が固定し就労が困難であれば障害認定を受けることでこの問題はある程度解決します。しかし、今回の提案は「手帳を所持していない」人を対象に、曖昧な段階で支援対象を拡大しようとしています。これは、「障害者」の定義の拡大につながり、社会保障制度全体の持続可能性に影響を与えかねません。

3. 社会保障・福祉予算の効率的な運用を
社会保障・福祉予算は有限です。就労支援の対象を拡大すれば、それに伴う支援費用も増大します。

現状の障害者を対象にした就労支援においても、現場を知る者から言わせていただけば、「本当に就労に繋がっているのか」疑問符がつくケースや、必要性の低い支援も散見されます。就労支援に携わる事業者ばかりが増え、国の予算(補助金や助成金)が増える一方では、現役世代の社会保険料をいくら徴収しても福祉制度全体が破綻しかねません。

🚨【最も重要】就労支援の「質」が社会全体の利益につながる
この問題の根底にあるのは、「就労支援事業所の質のばらつき」です。

現在の就労支援サービス(特に就労移行支援や就労継続支援など)の業界では、参入障壁が比較的低く、質の悪い会社も残念ながら存在し、多くの問題が発生しています。

形骸化した訓練の提供: 利用者一人ひとりのニーズや能力に合わない、単なる「時間潰し」のような訓練しか提供せず、実質的な就職準備につながらないケース。

就職率の「水増し」: 制度上の要件を満たすため、短期間で安易な就職先をあっせんし、すぐに離職してしまう「回転ドア」状態を生み出しているケース。これは、利用者本人の自信喪失につながるだけでなく、雇用した企業の障害者雇用に対する不信感も高めます。

不適切な利用者集め: サービスの質ではなく、行政の給付費を主眼に置き、本当に支援が必要な人を適切に評価せず受け入れてしまう、モラルハザードを引き起こしているケース。

こうした質の低い支援事業者が増えることは、「本当に就労困難な障害者や難病患者」が必要な支援を受けられない状況を生み出すだけでなく、貴重な税金を無駄に浪費していることに他なりません。

🤝共生社会の実現へ:明確な基準と効率的・優秀な支援体制を
アイズルームが目指すのは、障害や病気を抱えていても働く意欲があり、体力的・精神的に就労が可能な方が、社会参加を通じて生きがいを見出せるインクルーシブな共生社会です。

今回の難病患者の雇用促進に向けた動きは、その実現に向けた第一歩となり得ますが、そのためには、

現場の混乱を避ける明確な「就労困難性の判断基準」の確立。

限りある予算を有効活用するための支援体制の厳格な効率化。

質の低い事業者を淘汰し、優秀な就労支援事業者が支援を担う仕組みの徹底。

が必須条件となります。

本当に必要な障害者や難病患者に、優秀な就労支援事業者が質の高い支援を進めること。 障害者や難病患者に本当に有益となる法人が雇用を促進すること。

制度設計にあたっては、形式的な対象拡大ではなく、「誰を、どのように、どこまで支援すれば、利用者本人と社会全体にとって最も効果的か」という視点に立ち返った、質の高いサービスを前提とした議論が求められます。

この問題提起について、皆様はどのように考えられますか。ぜひご意見をお聞かせください。

ブログ読者の皆様へ:アイズルームでは、企業・事業所様向けのコンサルティング、および無償での居住・就労支援に関するご相談を受け付けております。ご興味がございましたら、お気軽にお問い合わせください。