​厚生労働省が先日、第8期（2027～29年度）障害福祉計画の基本指針に盛り込む成果目標の案を示しました。これには、人材確保・定着や生産性向上、就労選択支援の推進、情報公表の徹底などが盛り込まれています。しかし、障害当事者およびその親族の視点から見ると、これらの形式的な「成果目標」は、現場で深刻化している構造的な問題の解決に全く寄与しないのではないかという強い懸念を抱かざるを得ません。
​当事者のニーズと計画の乖離
​現在示された目標案は、都道府県や事業所といった「箱」や「数」を整備することに主眼が置かれており、肝心な「中身」、すなわち個々の障害特性（身体、精神、知的、発達など）に応じたきめ細かな支援計画の実現が置き去りになっています。
​身体障害と精神障害、またその中でも細分化される多様なニーズを一律に捉えた支援計画は、個々の障害者にとって真の社会参加を遠ざける結果を招きます。

​企業の要求と福祉現場の指導力の深刻なミスマッチ
​就労支援の現場における指導者・経営者の質の問題は、長年の懸案事項であり、今回の基本指針案をもってしても改善が見込めない、最も根深い問題の一つです。アイズルームが複数の福祉作業所の問題解決コンサルタントを行ってきた経験から、この問題は現場において極めて深刻であると認識しています。
​指導者の「福祉偏重」と実務経験の欠如
​就労移行支援、就労継続支援A型・B型といった事業所（作業所）の指導スタッフの多くは、「福祉の心」や関連資格を有しているものの、一般企業での就労や経営の実績が極端に不足しています。
​このミスマッチが、企業が実際に求める人材スキルと、事業所が行う訓練内容との間の決定的な溝を生み出しています。
​資格・研修制度の形骸化
​厚労省管轄の資格や研修制度は、実際の民主主義的な企業が求める人材育成や、ビジネスにおける生産性の向上という視点からかけ離れた、「机上の空論」に基づいています。
​就労支援に携わる経営者や指導員に対し、福祉的知識だけでなく、企業経営、実務スキル、生産性向上に関する抜本的な再教育、すなわち「社会人としての指導者」への転換が急務です。
​蔓延する「福祉の仮面」を被った悪質事業所と予算の空費
​近年、就労支援事業所の数は急増し、文字通り乱立している状況ですが、その中には「福祉」という美名を盾に、真に障害者の就労支援に寄与しない、極めて悪質な経営を行う企業が少なくありません。
​予算の適切な配分への疑問
​現在の就労支援に投じられている莫大な国家予算は、形式的な「場」の提供や、実態の伴わない訓練に費やされ、「税金の無駄遣い」になっているという批判は免れません。
​真の社会参加への寄与が乏しい現状であれば、就労支援にかかる予算の一部を直接、障害者本人の生活補助に充当した方が、当事者の生活の安定に直結し、遥かに有用であるとの見解も成り立ちます。
​「たらい回し」を生む相談支援の弊害
​就労移行支援などに通う際に、障害者本人の意思決定を尊重するどころか、事前の相談支援が必須となり、その相談役を担う人たちのスキルもまた、企業実務とはかけ離れた研修に基づいています。
​この手続きの煩雑化が、当事者の主体的な就労選択を阻害し、むしろ福祉企業の利権構造を強化している側面が疑われます。

​求められる今後の課題：真の社会参画への道筋
​第8期計画の基本指針において、施設入所者の地域移行や削減といった目標値が継続されたことは重要ですが、「箱」の整備以上に、「中身」と「人」の質を改革しなければ、障害者の社会参加は絵に描いた餅に終わります。
​審議会への「当事者・企業」の参画拡大
​厚生労働省の審議機関には、従来の福祉関係者に加えて、障害当事者、障害者家族、一般企業の経営者、社会活動家といった、「社会の実態を知る多様な主体」を加え、国家予算を無駄に膨張させるのではなく、真に障害者が働きやすい寛容な社会のあり方を議論すべきです。

​指導員の抜本的なスキルアップと評価制度の導入
​現行の就労支援事業所が主体となる体制では、真の社会参加は一生叶わないという強い危機感を持つべきです。
​就労支援事業所における経営者や指導員に対し、企業での一定期間の実務研修を義務化するなど、具体的なスキルアップを促す制度と、就労後の定着率や賃金向上を評価基準とする厳格なシステムを導入する必要があります。

​私たちは、「アイズルーム」ブログを通じて、現在の就労支援システムが抱える構造的な問題を強く指摘し続けます。障害当事者が真の意味で社会の構成員として活躍できる、寛容で、実効性のある社会の実現こそが、私たち全員の願いです。