【重度訪問介護の「見えない壁」:重度知的障害者の地域生活を阻む制度と現実のギャップを問う】
ニュースの概要:重度訪問介護サービスの「ねじれ」
本日取り上げるニュースの焦点は、重度訪問介護サービスの利用実態です。このサービスは、外出時を含め生活全般を支える重要な福祉サービスであり、全国で約1万3000人が利用しています。しかし、その多くは肢体不自由者であり、制度上は対象である知的障害者で実際に利用する人はごくわずかという「ねじれ」の状況があります。
ニュースでは、特に重度知的障害を持つ一矢さんが、NPO法人自立生活企画(益留俊樹代表、東京)の介護職員による同サービスを利用している事例を紹介しています。益留代表は、神奈川県内で同サービスを提供する事業所はあっても、一矢さんを受け入れるところがなかったという厳しい現実を指摘。「一矢さんは偶然利用できた、と言う人がいるが、一矢さんをレアケースにしてはいけない」と強く警鐘を鳴らしました。また、この問題を解決すべく、かつての津久井やまゆり園職員らが集まり、団体名を「重度知的障害者の地域生活を進める会」とすることを決定したことも報じられています。
この一矢さんの事例と、それを取り巻く支援者たちの動きは、「制度上の対象」と「現場での受け入れ」の間に存在する大きなギャップを浮き彫りにしています。
問題提起:重度訪問介護の「知的障害者排除」構造
なぜ、重度訪問介護サービスは、制度上対象であるはずの重度知的障害を持つ人々の利用が進まないのでしょうか?これは、単に一矢さんが「偶然利用できた」という個人的な幸運の話ではなく、福祉制度の根深い構造的な問題を映し出しています。
1. 専門性とスキルの「見えない壁」
重度訪問介護は、利用者の生活全般を支えるため、高度な専門性が求められます。しかし、重度知的障害を持つ方への支援は、身体介護が中心となる肢体不自由者への支援とは異なり、コミュニケーションの困難さ、突発的な行動への対応、医療的ケアを含む複合的なスキルが必要とされます。多くの事業所は、そうした専門的な知識や経験を持つ職員の確保が難しく、「重度知的障害者の支援は難しい」として事実上受け入れを拒否してしまう現実的な壁に直面しています。
2. 報酬体系とリスク評価の課題
現行の報酬体系が、重度知的障害者の特性に応じた、専門性の高い個別支援や、複雑な行動に対するリスク管理にかかるコストや手間を適切に評価できていない可能性があります。事業所側が、手間やリスクに見合う報酬が得られないと判断すれば、肢体不自由者に比べて支援がより複雑になりがちな重度知的障害者の受け入れに消極的になるのは、経営判断として避けられない側面があります。
3. 「レアケース」化の危険性と制度の普遍性
益留代表が強調するように、一矢さんの事例を「例外」として処理してしまうことは、制度が本来目指す普遍的な支援から遠ざかることを意味します。重度訪問介護が、重度知的障害を持つ人々が地域社会で当たり前に暮らすためのインフラとして機能不全に陥っていること、そして、支援を受けられない人が「隠れた多数派」になっている可能性を示唆しています。
4. 地域生活移行のインフラ整備の遅れ
かつての県営施設職員が準備会に参加している事実は、重度知的障害者の地域移行という大きな国の方針があるにもかかわらず、その受け皿となる「在宅サービス」、特に重度訪問介護の整備が全く追いついていないことを示しています。理念だけが先行し、「命綱」となるサービスがなければ、地域生活は実現しません。
アイズルームからの提言:共生社会への道筋
重度知的障害を持つ人々が、自分の望む地域生活を送るためには、この「見えない壁」を壊し、重度訪問介護を真にユニバーサルな制度として機能させることが不可欠です。
専門特化へのインセンティブと研修の義務化: 重度知的障害支援に特化した事業所への財政的優遇を強化し、専門職員育成のための必須研修を導入することで、サービスの質と受け皿を拡大すべきです。
報酬体系の抜本的見直し: 重度知的障害者の支援に伴う複雑さ、専門性、およびリスクを正当に評価する報酬体系を構築し、事業所の参入障壁を下げるべきです。
成功事例のモデル化と情報共有: 一矢さんのような成功事例を「レアケース」で終わらせず、その支援ノウハウを広く共有し、全国の事業所が模倣できるモデルケースを増やすことが求められます。
重度知的障害を持つ方々も、地域社会の一員として、必要な支援を受けながら当たり前に暮らす権利を持っています。重度訪問介護の利用が進まない現状は、社会全体が彼らの地域生活を十分に支えられていないという、厳しい現実を突きつけているのです。
アイズルームは、障害者が暮らしやすい共生社会をつくるために、この問題から目を背けず、今後も情報発信と活動を続けてまいります。