私はこれまで約20年間にわたり、障害者就労支援や居住支援に携わってまいりました。
対象は障害者にとどまらず、難病患者、生活困窮世帯、母子家庭、ホームレス、そして元受刑者など、いわゆる生活弱者と呼ばれる方々の人生に寄り添ってきました。
現在は全盲となり、直接現場で動くことは難しくなりましたが、ボランティアとして福祉団体のコンサルタントを続けております。
私がこの活動を続けてきたのは、住まいという基盤を失うことが、その人の尊厳や命をいかに危うくするかを痛感してきたからです。
《杉並区で起きた悲劇的な強制執行事件》
2026年1月15日、東京都杉並区のアパートで、私たちの活動の根幹を揺るがすような悲惨な事件が起きました。
家賃滞納による立ち退きの強制執行が行われていた際、住人の40代の男が、裁判所の執行官と家賃保証会社の社員を刃物で刺したのです。
この事件により、保証会社の社員である60代の男性が背中を刺されて亡くなり、60代の執行官も胸を刺される重傷を負いました。
逮捕された男は「金もなく、追い出されたらどうしていいか分からず自暴自棄になった」と供述しており、現場ではガスボンベによる爆発火災も発生していました。
命を奪う行為は決して許されるものではありませんが、この極限状態を生み出した背景にある「絶望」を放置してはならないと感じています。
《保証会社の歴史と督促の現実》
家賃保証会社という制度は、かつての消費者金融(サラ金)が社会問題化した頃から普及し始めました。
当時は、債務回収の経験を持つ人材が保証会社へ流れ、その厳しい手法が業界に持ち込まれたという記憶があります。
現代では闇金のような違法な取り立てこそ減りましたが、保証会社による督促は依然として強烈であり、生活困窮者を精神的に追い詰める大きな要因となっています。
私はこれまで、過酷な督促に怯える人々を救うため、行政に繋ぐ支援を続けてきました。
その一方で、自ら物件オーナーや管理会社として督促を行い、今回のような立ち退きの現場に何度も立ち会ってきた経験もあります。
追い出す側の事情も、追い出される側の絶望も、その両方の気持ちが痛いほど分かるのです。
《社会に存在する支援の網と届かない声》
世の中には、働く意欲さえあれば、その日から住み込みで日払いを受けられる仕事も存在します。
決して条件の良い仕事ばかりではありませんが、食いつなぐ手段はゼロではありません。
また、行政が運営する無料低額宿泊所などの施設もあり、場所を選ばなければ数日で入所することが可能です。
しかし、精神疾患を患ったり、孤立を深めたりした当事者が、自分一人の力でこれらの支援に辿り着くことは不可能です。
「家を失う」という恐怖に震える中で、正常な判断力を失い、執行官や保証会社の担当者を「自分を壊しに来る敵」と見なしてしまう。
この孤独な憎しみが、今回のような最悪の結果を招いてしまったのではないでしょうか。
《アイズルームの提言:行政と福祉が介入する総合支援体制》
空き家問題が深刻化する一方で、住む場所を失う人々がいるこの矛盾を、行政はもっと重く受け止めるべきです。
家賃を滞納することは確かに許されることではありませんが、その背景には失業や病気、社会的な孤立が必ず隠れています。
私は強く訴えたい。
裁判所が強制執行を行う前に、必ず行政の福祉担当者や支援団体が介入し、入居者に具体的な支援策を提示する仕組みを構築すべきです。
住居を喪失することは、命を失うことに限りなく近い。
保証会社はただ機械的に人を追い出すのではなく、行政と手を組み、執行前の「福祉的サポート」を組み込むべきです。
誰もが取り残されず、誰もが犯罪者にされない社会。
そのためには、強制執行という「法的手段」の前に、福祉という「人の手」を差し伸べる温かい支援体制が必要です。
悲劇を繰り返さないために、制度の抜本的な見直しを強く求めてまいります。