【​奪われる記憶、それでも消えない人間の尊厳。全盲のコンサルタントが語る「認知症と共生する居住支援」の真実と希望 】

      

【​奪われる記憶、それでも消えない人間の尊厳。全盲のコンサルタントが語る「認知症と共生する居住支援」の真実と希望 】

若い女性が説明をしているeyesroom.comのHP表示画像です。

​現在、私の左目は深い闇に包まれ、右目はすりガラスの底から覗くような薄暗い白い靄の中にあります。視覚障害者となって8年。2年ほど前からは、光のほとんどを失った全盲に近い状態となりました。
​しかし、視界が遮られたからこそ、より鮮明に思い出す光景があります。それは、私が重度視覚障害者になる前に心血を注いでいた「居住支援」の現場で起きた、ある高齢男性との日々です。認知症という出口のない迷路に迷い込みながらも、懸命に生きた彼との交流を通じて、私たちが向き合うべき社会の課題と未来を綴ります。
​《目次》
第1章:孤独を笑いで隠した職人、小林さんとの邂逅
第2章:理想の住まい、23区駅近1DKでの再出発
第3章:忍び寄る影、キッチンを包んだ白い煙の警告
第4章:現場急行、地域社会と安全の狭間で
第5章:文明の利器という壁、IH導入の葛藤
第6章:失われる自信、鍵と共に消えていく記憶
第7章:心の隙間を狙う悪意、信仰という名の搾取
第8章:魂の交流、ALS患者と育んだ奇跡の共生
第9章:排除から共存へ、私たちが守るべき最後の尊厳
第1章:孤独を笑いで隠した職人、小林さんとの邂逅
​小林さん(仮名)は、いつも冗談を絶やさない、太陽のような明るさを持つ方でした。かつては腕一本で生きてきた職人でしたが、体が動かなくなり、生活は困窮。生活保護の申請をきっかけに、私たちの支援が始まりました。そのどこか不器用で温かい佇まいは、私の義理の父に似ていて、私にとって特別な思い入れのある方でした。
​第2章:理想の住まい、23区駅近1DKでの再出発
​彼のために用意したのは、東京23区内、駅から徒歩8分という好条件の1DKでした。風呂・トイレ別、日当たりも良好。生活保護受給者がこれほど条件の良い物件に入居できるケースは稀ですが、私たちは「環境が人を支える」と信じ、この場所での新生活を後押ししました。
​第3章:忍び寄る影、キッチンを包んだ白い煙の警告
​入居から3年。70歳を目前にした頃、小林さんの様子に変化が現れました。認知症の発症です。ある日、火にかけた鍋を忘れ、部屋は猛烈な煙に包まれました。幸い火災には至りませんでしたが、上階の住人が通報し、静かなアパートに消防車のサイレンが鳴り響きました。
​第4章:現場急行、地域社会と安全の狭間で
​当時は24時間体制の緊急対応を敷いていたため、私は夜の闇を切り裂くように現場へ急行しました。近隣住民からは「前にも焦がしていた」「何とかしてほしい」という切実な声が上がります。地域で暮らし続けるためには、この「安心」の崩壊を食い止めなければなりませんでした。
​第5章:文明の利器という壁、IH導入の葛藤
​安全のため、ガスコンロを撤去しIHクッキングヒーターを導入しました。しかし、長年「火」で料理をしてきた職人の手には、ボタン一つで動く機械は異物でしかありませんでした。使いこなせるようになるまでの戸惑う姿に、文明の進化が必ずしも高齢者の味方ではない現実を痛感しました。
​第6章:失われる自信、鍵と共に消えていく記憶
​症状は進み、今度はアパートの鍵を頻繁に失くすようになりました。合鍵を作ろうとマスターキーを渡しても、その店に着くまでに鍵そのものを忘れてしまう。何度も何度も鍵を失くす自分に、小林さんは生きる自信を削り取られていきました。私たちは行政と連携し、掃除や料理の支援を組み込み、彼の手からこぼれ落ちる日常を一つひとつ拾い上げました。
​第7章:心の隙間を狙う悪意、信仰という名の搾取
​そんな小林さんの脆弱さに付け入る影がありました。近隣からの情報で発覚したのは、家に出入りする見知らぬ女性二人組。宗教勧誘を騙り、判断能力の衰えた高齢者から金銭を搾取しようとする、断じて許しがたい悪意でした。孤立は、時としてこうした「悪魔」を呼び寄せます。
​第8章:魂の交流、ALS患者と育んだ奇跡の共生
​救いもありました。同じ1階に住むALS(筋萎縮性側索硬化症)を患う女性との交流です。難病と認知症。共に重い荷物を背負った二人が、ただ静かに語り合い、微笑み合う姿には、言葉を超えた魂の共鳴がありました。そこには、病や障害を越えた「人間としての幸せ」が確かに存在していました。
​第9章:排除から共存へ、私たちが守るべき最後の尊厳
​誰もが認知症になる可能性があるこの社会で、私たちは問い続けなければなりません。問題が起きたからといって、場所を奪い、排除することが正解なのでしょうか。
​私たちはこれまで、障害、難病、年齢を理由に誰かを拒むことはしませんでした。トラブルが起きれば、GPSや見守り、地域との連携など、一つひとつ解決策を模索してきました。居住支援の本質とは、単に屋根を貸すことではなく、その人がその人らしく、最期まで尊厳を持って生きられる「空間」を守ることです。
現在、私は全盲のコンサルタントとして、赤字に苦しむ福祉現場の経営改善に取り組んでいます。需要があるのに淘汰される。そんな厳しい現実を変え、日本の福祉を守ることが私の使命です。
​記憶が霞んでも、光を失っても、人は誰かと繋がり、共に笑うことができます。排除ではなく共生。アイズルームはこれからも、皆さんと共に歩みを止めず、明るい未来を照らし続けます。
​次の一歩として。
カテゴリー