20年以上にわたり、生活困窮者の支援に携わってきた私は、数え切れないほどの人生の岐路に立ち会ってきました。困窮に至る理由は千差万別ですが、その根底に根深く横たわっているのがギャンブル依存症という怪物です。
​普段、アイズルームでは障がいや難病の支援についてお伝えしていますが今回は私が以前経営していた会社で目の当たりにした依存症の恐ろしさ、および世界を震撼させたある事件についてお話ししたいと思います
献身の裏に隠された絶望:水原一平氏の事件
​2024年、世界のスーパースターである大谷翔平選手がドジャースへ移籍した際、野球界のみならず世界中を驚愕させる事件が発覚しました。長年、大谷選手の右腕として誰よりも献身的に彼を支えていた通訳、水原一平氏による巨額の横領事件です。
​水原氏は、違法なスポーツ賭博の負け分を補填するため、大谷選手の口座から無断で約1,600万ドル(当時のレートで約24億円)以上もの資金を不正に送金していました。最終的に水原氏は銀行詐欺などの罪を認め、司法取引に応じる結果となりました。
​有能で、周囲からも厚い信頼を寄せられていた人物が、なぜこれほどの暴挙に及んだのか。その答えは、彼が抱えていた深刻なギャンブル依存症にありました。一度足を踏み入れると、友情も、キャリアも、そして莫大な金銭ですら制御不能にするのが、この病の恐ろしさなのです。
​職場の隅で囁かれる偽りの成功体験
スタッフには常にギャンブルには絶対に手を出すなと厳命していますが、以前経営していた会社では、私が席を外すと事務所の空気は一変していました。
​「昨日、パチンコで一気に8万勝っちゃってさ。投資3,000円でいきなり連チャンが止まらなくなって、最高の気分だったよ!」
「俺も昨日、競馬で万馬券当てたんだ。これで今月は飲み代に困らない。次は一緒に行こうぜ、勝ち方教えてやるから」
​彼らが語るのは、常に勝った話だけです。負けてボロボロになった日のことは、恥部としてひた隠しにします。仲間内で称賛され、まるで自分が特別な才能を持っているかのような錯覚に陥るのです
​中には、夜な夜な麻雀に明け暮れお酒を飲み、充血した目で出社するような、自身の生活を律することができない人間もいました。皮肉なことに、こうしたギャンブルにのめり込むグループの中には、仕事に対して非常に強引で、一時的に高い営業成績を上げる者もいます。しかし、その勢いは長くは続きません。
​小遣いの範囲で収まっているうちはいい。しかし、依存の歯車が狂い始めると、家庭に入れるはずの生活費に手が伸び、やがてはサラ金からの借金、および最悪の場合は会社のお金への横領。全員がこうなるわけではありませんが、依存症になれば自分の意志では止まれないのです。
なぜやめられないのか:脳を支配する依存のメカニズム
​なぜ、多くの人がこれほどまでに盲目的になってしまうのでしょうか。最新の脳科学では、ギャンブル依存症は個人の意志の力では治すことができない脳の病気であると定義されています。
​人間が報酬(勝ち)を得ると、脳内でドーパミンという快楽物質が分泌されます。ギャンブルの恐ろしい点は、このドーパミンが勝った時だけでなく当たりそうになった時(リーチなど)にも大量に放出されることです。
​脳の耐性:刺激に慣れてしまい、より強い刺激、より大きな賭け金を求めなければ快感を得られなくなる。
​前頭前野の機能低下:理性を司る脳の部位がダメージを受け、ブレーキが効かなくなる。
​負け追いの心理:負けた分をギャンブルで取り返そうとする認知の歪みが生じる。
​現在、大阪の夢洲(ゆめしま)では、2030年の開業を目指して日本初のカジノを含む統合型リゾート(IR)の建設が着々と進められています。すでに法律は制定され、巨大な娯楽施設が誕生しようとしています。誘惑が日常に溶け込み、さらに身近になる環境は、依存のリスクをこれまで以上に高めることになります。
魔の15日:高齢者を襲う年金依存の現実
​依存症の刃は、現役世代だけでなく、社会を支えてきた高齢者にも向けられています。
日本の厚生年金の平均受給額は約14万円と言われています。家賃や光熱費、食費を考えれば、ギャンブルに興じる余裕などどこにもないはずです。
​しかし、パチンコ店が最も活気づき、混雑を極めるのはいつかご存知でしょうか。それは、2ヶ月に一度の年金支給日である15日です。
​朝から店の前に並ぶ高齢者の姿。その手にあるのは、生活を支えるための貴重な年金です。一度ハマってしまえば、自制心は意味をなしません。お小遣いの範囲を超え、本来支払うべき光熱費や医療費にまで手をつけてしまう。負けが込めば、次の支給日までどうやって食べていくのかという極限状態に追い込まれます。
依存症から脱却するために:専門的な取り組み
​もし、あなたや大切な人が依存の沼にハマっているなら、個人の力だけで解決しようとしないでください。これは専門的な治療やサポートが必要な病気です。
​専門機関への相談:精神科や依存症専門のクリニックを受診し、適切な治療を受ける。
​物理的遮断:自分でお金を管理せず、信頼できる家族に任せる。
​自助グループへの参加:GA(ギャンブラーズ・アノニマス)など、同じ悩みを持つ仲間と話し、孤独を解消する。
​周囲の人間は本人を責めるのではなく、これが病気であることを理解し、共に回復の道を探る忍耐強さが求められます。
アイズルームの結論:人生を取り戻すために
​生活困窮者支援の現場を見てきたからこそ、私は断言します。ギャンブルが幸せを導くことは、絶対にありません。
​少ない金額だからいいという甘い考えが、止まらない負の連鎖への入り口です。勝った時の快感は脳に深く刻まれ、やがて借金をしてまでギャンブルを続けることになってしまいます
​これらは男性だけでなく、主婦の方や高齢者にも増えています。ほどほどでやめられないのがギャンブルの正体です。
特に高齢になってからハマってしまったら、人生の取り返しはつきません。
自分自身の力で自制心が効かないと感じる方は、絶対に手を出さないでください。あなたの人生と、あなたを大切に思う人たちの生活を守るために。