【訪問介護事業者の危機的倒産増加の背景と、国の公費に依存しない持続可能な経営改革・AI活用による未来の羅針盤】

      

【訪問介護事業者の危機的倒産増加の背景と、国の公費に依存しない持続可能な経営改革・AI活用による未来の羅針盤】

自宅で介護士からサポートを受けている、車椅子難病患者のイメージ画像です。

​松戸スタートアップオフィスに拠点を構える問題解決コンサルタント「アイズルーム」です。
​当社の事業の柱である「障害福祉」に関連したブログを毎日配信しております。
​今日のテーマは、訪問介護業界の厳しい現状を示す下記のニュースです。
ニュースの概要
​東京商工リサーチ(TSR)の調査により、2025年11月末時点の訪問介護事業者の倒産件数が85件に達し、過去最多を3年連続で更新しました。
​施設を含む介護事業者全体の倒産件数も、この時期として過去最多の161件です。
​倒産の原因の84%は売上不振であり、小規模事業者の倒産が約9割を占めます。
​主な背景として、人手不足の深刻化とコスト増に加え、2024年度の介護報酬改定で訪問介護の基本報酬が引き下げられたことが、収入減という形で経営を圧迫しています。
​政府は緊急対応として介護職員の賃上げ支援を打ち出しましたが、業界全体の経営環境は極めて厳しい状況にあります。
ある訪問介護事業者のセミナー参加報告と懸念
​このニュースの示すように介護現場は非常に厳しい状況にあると認識しています。
​そのような中、鎌ヶ谷市に本店を置く訪問介護事業所が、売上17億円以上、従業員350人以上という急成長を遂げているとのことで、その会社の社長によるセミナーに参加いたしました。
​厳しい訪問介護業界の中で、急成長を遂げている点は評価に値します。
​セミナーの内容として、この事業所では従業員に売上とコスト意識を徹底させ、損益分岐点を末端のスタッフまで共有することで、従業員一人ひとりが会社の利益状況を把握できる仕組みになっているとのことでした。
​給与体系については、ボーナスはなく、毎月の給与を仕事内容によって細かく評価し昇給させているとのことです。
​事務職や営業職ではない福祉の現場においてコスト意識を持つことも一定程度大切ですが、なによりも目の前にいる利用者の方へのサービス向上が最優先事項であると考えます。そのため、会社の考え方には利用者本位という視点から一部懸念を感じました。
​セミナーの大部分は収支や事業拡大、多角化に関する話に終始し、最も大切な利用者、すなわちお客様への思いや、細かな従業員への介護方針指導、研修などに関する話がほとんどなかったことに不安を覚えました。
セミナー参加による個人的な経営視点からの分析
​セミナー主催者側はこの社長のことを手放しで賞賛しており、セミナーに参加していたこの会社の従業員の方々もかなり社長に気を遣い、持ち上げている様子が見受けられました。
​10年以上をかけての売上17億円という数字は、訪問介護業界内では中堅規模として一定の評価ができます。
​従業員数(350人)から換算すると一人当たりの売上高は業界水準の上位であり、生産性の高い経営を行っていることがうかがえます。
​周りの小規模な事業所が多い環境の中で、規模の経済を活かして急成長していると言えます。
​売上17億円という数字は、業界内では中堅規模であり、倒産が相次ぐ零細企業とは一線を画します。
​しかし、少なくても目標を売上ではなく利益率を重視した経営にしないと、外部環境の変化や小さな問題が発生しただけで経営が揺らいでしまうでしょう。
​また、この程度の会社規模で経営者自身が現状に満足し、優れていると自負しているならば、それは「裸の王様」の状態であり、急成長の歪みが露呈し淘汰される可能性が高いと考えます。
​訪問介護事業は労働集約型ビジネスであるため、いくら従業員数を増やしても会社自体が本質的に強くなるわけではありません。
訪問介護のあるべき姿と持続的経営のための羅針盤
​日本の国家財政は逼迫しており、国の認可事業だけで公費に頼る事業モデルは、国の政策転換や介護報酬改定で一気に経営が破綻するリスクを常に抱えています。
​訪問介護事業者が生き残り、利用者と従業員の双方にとってより良いサービスを提供するための経営改革の方向性、すなわち訪問介護の羅針盤を提言します。
​経営の規定改革:公費依存からの脱却と利益率重視の経営
​多角的な収益源の確立: 介護保険外サービスや自費サービスの拡充、地域ニーズに基づいた新たな事業展開により、公費に頼らない収益の柱を確立します。
​生産性向上の徹底: 労働集約型からの脱却を目指し、一人当たりの付加価値を高めるための業務効率化とシステム投資を最優先します。
​利用者満足度と利益率の連動: 単なる売上ではなく、高い利用者満足度を維持しながら、健全な利益率を確保できるサービス設計を追求します。
AIの活用とテクノロジー導入
​事務作業のAI化: ケア記録、請求業務、シフト作成などのバックオフィス業務にAIを導入し、介護職員が利用者と向き合う時間を最大化します。
​リスク管理と予測: 利用者の健康状態や異常をAIが予測・検知し、未然に重度化を防ぐことで、サービスの質の向上とコストの最適化を図ります。
​人材育成とスキル共有: AIを活用した教育プログラムを導入し、経験やスキルの平準化を図り、質の高い介護サービスを安定的に提供できる体制を構築します。
未来志向の組織文化
​利用者本位の徹底: 経営陣から末端スタッフまで、全ての判断基準を「利用者の方へのサービス向上」に置く組織文化を醸成します。
​真の人的資本経営: 処遇改善を目的とした賃金体系の見直しはもちろん、キャリアパスの明確化、精神的・身体的な負担軽減策を講じ、従業員満足度と定着率を高めます。

​訪問介護事業者が持続的に発展していくためには、目先の売上や規模に満足するのではなく、国に依存しない強靭な経営体質を築き、テクノロジーを積極的に活用した生産性向上と、何よりも利用者の方々へのサービス向上を追求する姿勢が不可欠です。
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