【排泄の悩みは生きる尊厳に関わる問題:精神疾患・認知症・身体障害の現場から考える共生とサポートの在り方】

      

【排泄の悩みは生きる尊厳に関わる問題:精神疾患・認知症・身体障害の現場から考える共生とサポートの在り方】

ご自宅の介護ベットの上で、男性高齢者が上体を起こし苦しんでいる表情、傍らで高齢女性が寄り添っている老々介護現場写真です。
​​障害当事者としての視点を持ち、現場のリアルを届ける「アイズルーム」のブログへようこそ。
本日は、多くの方が直面しながらも、なかなか表立って相談しづらい「排泄障害」というテーマに向き合いたいと思います。
​排泄は人間が生きる上で欠かせない営みですが、病気や障害、加齢によってそれが困難になったとき、本人も周囲も深い悩みを抱えることになります。私自身が運営していた施設での経験や、自分自身の障害を通して見えてきた現実、さらに解決へのヒントを項目ごとに整理してお伝えします。
【精神疾患と行動障害がもたらす排泄トラブルへの対応】
​かつて私が運営していた高齢者施設には、重い精神疾患を抱えたアメリカ人の方がいらっしゃいました。お薬が効いている時間は非常に穏やかで論理的な会話もできる方でしたが、飲酒などをきっかけに症状が不安定になると、トイレ内を汚してしまうなどの行動が見られました。
​このようなケースでは、本人のプライド(自尊心)が非常に高いため、一方的な注意は逆効果になりやすく、関係が悪化することが多々あります。
この問題の解決策としては、まず「医学的なアプローチ」と「環境の調整」を切り離して考えることが重要です。服薬管理の徹底はもちろんですが、一人の力で抱え込まず、精神科の専門医やソーシャルワーカーと連携し、必要であれば適切な医療環境(入院加療など)へ繋げる判断も、本人と周囲の安全を守るための大切なケアの一つです。
​【認知症による不潔行為や頻尿への向き合い方】
​在宅介護において特に負担が大きいのが、認知症に伴う排泄の悩みです。お尻を拭ききれずに歩いてしまったり、間に合わずに失敗してしまったり、あるいは10分おきにトイレに行きたいと訴える「心因性の頻尿」などは、介護者の心身を疲弊させます。
​解決策としては、排泄パターンを記録して「失敗しやすい時間帯」を把握し、先回りして誘導する「定時誘導」が有効です。また、夜間の頻尿については、医療機関を受診して泌尿器科的な問題がないか確認するとともに、介護負担を軽減するためにショートステイやデイサービスなどの公的サービスを積極的に利用してください。介護者が夜に眠れない状態は、共倒れのリスクを高めてしまいます。
​【身体障害や脊髄損傷に伴う排泄管理とストーマの理解】
​脊髄損傷などで下半身に麻痺がある方は、排泄の感覚が失われることがあります。排便に数時間を要したり、意図せず漏れてしまったりすることは、本人にとって大きな精神的ダメージ(トラウマ)となります。また、大腸がんなどで肛門を喪失し、腹部に「人工肛門(ストーマ)」を造設されている方も多くいらっしゃいます。
​解決策としては、まず社会全体が「多目的トイレ」などのインフラ整備の重要性を正しく認識することです。ストーマを装着している方(オストメイト)には専用の洗浄設備が必要です。また、麻痺がある方の場合は、医師やリハビリ職と相談し、摘便や座薬を用いた「排便コントロール」のスケジュールを確立することで、日常生活での不安を軽減していくことが可能です。
​【福祉用具の選択と介護保険サービスの活用による負担軽減】
​介護家族が直面する大きな悩みの一つが、排泄後の片付けです。特に便が緩い状態での処理は、専門職でも負担を感じるものです。しかし、これを家族だけで完璧にこなそうとする必要はありません。
​解決策として、まずは「福祉用具」を賢く選ぶことが大切です。最近では、におい漏れを防ぐ特殊なゴミ箱や、自動で排泄物を密閉処理してくれる自動ラップ式ポータブルトイレなど、介護者の負担を劇的に減らす用具が進化しています。これらは介護保険の特定福祉用具販売の対象になる場合もあります
また、汚れが広がりやすい場合は、訪問介護(ホームヘルプ)を定期的に導入し、プロの技術による介助や環境整備を取り入れてください。介護保険サービスには回数の制限や自己負担もありますが、ケアマネジャーと相談し、最も負担がかかる時間帯にサービスを充てることで、家族の心の余裕を確保することが可能になります。
​【家族の心理的葛藤と「赤ちゃんへの逆戻り」という覚悟】
​愛情を持って育ててくれた両親や尊敬していた家族が、排泄の失敗により家の中を汚してしまう光景を目の当たりにすることは、非常にショックな出来事です。
​解決策として大切なのは、その状況を「本人の人格」と結びつけないことです。病気や加齢による身体機能の低下は、言わば「赤ちゃんへの逆戻り」のような状態です。赤ちゃんの排泄をケアするように、ある種の割り切りを持つことが心の平穏に繋がります。大切なのは「全部を自分でやろうとしない」という覚悟です。プロの手を借りることは、本人にとっても「家族に申し訳ない」という罪悪感を減らすことにつながるのです。
​【孤独な介護を避けるために:アイズルームからのメッセージ】
​私自身も神経障害による麻痺を抱えており、過去に排泄の失敗を経験したことがあります。その時のショックや、次に起こるかもしれないという恐怖心は、経験した者にしかわからない辛さがあります。
​排泄の問題は、決して「汚い話」ではありません。人間が尊厳を持って生きるための、非常に重要な課題です。もし、あなたが今、一人で片付けに追われ、誰にも言えずに涙を流しているのなら、どうかその重荷をアイズルームに分けてください。
お話を聞くだけでも、心が休まるかもしれません。公的なサービスや便利な用具を使いながら、みんなでこの厳しい介護の現場を乗り越えていきましょう。