​アイズルームの代表として、私は「視覚障害」という当事者の視点、そして重度の麻痺を抱える母を持つ家族の視点から、日本の防災のあり方に一石を投じたいと思います。
​東日本大震災から15年という月日が経とうとしています。あの時、障害者の死亡率は住民全体の2倍にのぼりました。この数字は、単なる過去のデータではありません。「逃げたくても逃げられない」人々が今もなお、同じリスクの中に置かれているという警鐘です。
​今回は、災害時に障害者や難病患者が直面する壁を6つの章に分けて深掘りし、国と地域が歩むべき「真の共生防災」の方向性を提示します。
《第1章 アイズルームの取り組み》
​私は60歳の全盲の問題解決コンサルタントです。日々、マスメディアへの出演や福祉支援セミナー、そしてこのブログを通じ、障害福祉をテーマとした啓蒙活動を続けています。
​私自身の課題に加え、今の私を突き動かしているのは90歳の母の存在です。母は1回目の脳梗塞で下半身麻痺となり、2回目で首と左手しか動かせない状態になりました。もし今、大地震や水害が起きたら、この重い症状を持つ母をどう避難させればいいのか。車椅子の方、寝たきりの方、医療的ケアが必要な方々を受け入れる体制は本当に整っているのか。その不安は、私個人だけでなく、日本中の多くの家族が抱える切実な叫びです。
《第2章 福祉避難所の圧倒的な不足と1次避難の限界》
​災害時、障害者や高齢者が最初に向かうべきは一般避難所ですが、現実にはそこでの生活が困難な人が大勢います。そこで期待されるのが福祉避難所です。しかし、現状ではその数は圧倒的に足りていません。
​能登半島地震でも、協定を結んでいた福祉避難所がスタッフ不足や建物被害で開設できない事態が相次ぎました。また、一般避難所から福祉避難所へ移動する2次避難の仕組みも、現場の混乱で機能しづらいのが現実です。
​【課題】
一般避難所に、最初から車椅子や難病患者を受け入れるための福祉スペースを標準装備し、さらに専門的なケアができる施設へ地域枠を超えて迅速に移動できる広域連携ネットワークの構築が不可欠です。
《第3章 登録だけでは命は守れない。誘導体制の空洞化》
​私は市役所の障害者避難登録(避難行動要支援者名簿)に登録していますが、確信を持って言えることがあります。「登録しただけで安心はできない」ということです。
​激しい揺れや津波の危機が迫る中、近隣住民が自分の身を守ることで精一杯な時に、果たして私のような全盲者を安全に誘導してくれるでしょうか。寝たきりの方を、誰がどうやって運び出すのでしょうか。
​【課題】
名簿を作るだけでなく、誰が、どのルートで、どの資材を使って運ぶのかを定めた個別避難計画の策定を全自治体で加速させるべきです。現在、この計画策定は努力義務に留まっていますが、これを実効性のあるものにするためには、地域の防災訓練に障害当事者が必ず参加し、顔の見える関係を築くことが唯一の解決策です。
《第4章 デジタル活用による命のバトン。マイナンバーとデータ移行》
​現在、マイナンバーカードの普及が進んでいますが、これを単なる身分証にしておくのは宝の持ち腐れです。難病患者や人工呼吸器などを使用する医療的ケア児・者にとって、避難先でどのような治療や薬が必要かという情報が伝わらないことは死に直結します。
​【課題】
自治体の枠組みを超えて、避難者の健康状態や疾患情報を即座に共有できるデータ移行システムを確立すべきです。マイナンバーに紐付けられた医療情報を、災害時には全国の福祉避難所や医療機関が即座に閲覧できる体制を整えることで、どこに避難しても継続的なケアが受けられるデータのバリアフリーを実現すべきです。
《第5章 街づくりこそが防災。歩道の段差と違法駐車という障壁》
​避難の入り口は道です。しかし、私たちの周りには避難を阻む物理的な障害があふれています。歩道と車道の15cm程度の段差は、車椅子の方や杖をつく方にとって高い壁となります。さらに、歩道にはみ出した看板、放置自転車、違法駐車。これらは平常時でも危険ですが、災害時には凶器や通行止めに変わります。
​【課題】
国の防災計画として、駅周辺や主要な避難経路のバリアフリー化を強力に推進すべきです。段差の解消はもちろん、視覚障害者が迷わないための誘導ブロックの整備、そして避難の妨げになる放置車両・看板を徹底排除する道路計画が、多くの命を救う土台となります。
《第6章 結論:アイズルームが示す国の防災のあり方》
​東日本大震災から長い年月が経ちましたが、私たちはあの時の教訓を本当に活かせているでしょうか。自ら移動できない人をどう誘導し、どう生き延びさせるか。これは福祉の問題ではなく、国の安全保障の問題です。
​医療的ケアができる避難所の増設、デジタルによる情報連携、そして何より障害者が避難しやすい道路の整備。これらを後回しにせず、国の防災の柱に据えることを強く求めます。誰もが安心して避難できる街は、誰にとっても住みやすい街なのです。
​アイズルーム代表
問題解決コンサルタント