​生活困窮者にとって、電話番号がないことは単なる不便を超え、社会から抹殺されるに等しい事態を招きます。
​福祉団体アイズルームを運営する私は、全盲になる前、居住支援の最前線に立っていました。その現場で痛感したのは、携帯電話がないことの絶望的な不利益です。生活弱者で携帯を持たない方に対しては、賃貸物件を探して入居し、ご自身で電話を確保できるようになるまでの1ヶ月から2ヶ月間、電話の貸出を行っていました。また、過去に滞納履歴があって審査が通らない方でも契約できるような携帯電話の紹介も支援の一環として取り組んできました。
​生活困窮者において携帯電話がないということは、一体どのような問題を引き起こすのか。今日は、その実態と弊害について深く考察したいと思います。
​現代社会において、電気、ガス、水道は人間らしい生活を送るための最低限のインフラです。しかし、これらの契約を結ぶ際に電話番号の所持が事実上の必須条件となっている現状は、生活困窮者にとって極めて高い障壁となっています。具体的な弊害として、以下の4つのポイントが挙げられます。
​生活再建のスタートラインに立てない
ホームレス状態にある人や、ネットカフェなどで不安定な生活を送る人がアパートを借りて生活を立て直そうとする際、まず直面するのがこの問題です。住宅が決まっても、電気やガスが通らなければ生活を始めることができません。しかし、電話を契約するには本人確認書類や支払い能力が求められ、困窮状態では端末代や月額料金の支払いが困難です。電話がないからインフラが整わない、インフラが整わないから生活基盤が作れないという負のループに陥ります。
​公的支援や就職活動からの隔離
生活困窮者自立支援金や生活保護の申請、あるいは求職活動において、連絡先としての電話番号は不可欠です。電気やガスの契約ができないほどの状況にある人は、社会との接点を持つための最低限のツールである電話さえ奪われています。これにより、行政の支援にアクセスできず、孤立がさらに深まる結果となります。
​健康と安全への直結的な脅威
特に夏場の熱中症対策や冬場の暖房、食事の調理において、電気とガスは命を守るためのツールです。電話番号がないという形式的な理由でこれらの供給が受けられないことは、そのまま健康被害や生命の危険に直結します。また、オンラインでの手続きが主流になる中で、電話番号による二要素認証などが求められるケースも増えており、デジタル化が進むほど困窮者が取り残されるデジタル、ディバイド(情報格差)が生存を危うくさせています。
​契約の自由と事実上の強制
企業側には契約の自由があるとはいえ、独占性の高いライフライン事業において、電話番号の有無を絶対的な条件とすることは、事実上の居住の権利の制限にあたります。固定電話が普及していた時代とは異なり、現在は携帯電話が個人のID代わりとなっている側面がありますがそれが持たざる者を排除するフィルターとして機能してしまっています。
​この問題の解決には、以下のような柔軟な対応が不可欠です。
​・電話番号を持たない人向けに、行政や支援団体の中継による契約スキームを構築すること
・SNSやメール、あるいは対面窓口での本人確認による柔軟な契約プロセスの導入
・通信困窮者に対する格安SIMやプリペイド携帯の提供支援
​電話番号がないという一点のみで、暖を取ることや明かりを灯すことさえ許されない社会は、セーフティネットが機能しているとは言えません。制度の谷間に落ちた人々を救うためには、インフラ企業の柔軟な運用と、行政による強力なバックアップが急務です。