​私はこれまで、居酒屋やレストラン、焼肉などの専門店をはじめ、新規出店の企画からマーケティング、メニュー立案、SNS発信、ホームページ制作、ネット上の自動予約システム導入に至るまで、総合的な開業・経営コンサルティングに深く携わってきました。数々の現場で店舗の立ち上げと成長に接してきたコンサルタントとしての立場から、いま外食産業が直面しようとしている極めて厳しい現実についてお話しします。
​現在、食品に対する消費税率を2年間限定で1%に引き下げる議論が進んでいます。しかし、大きな波紋を呼んでいるのは外食産業の扱いです。今回の措置では、スーパーやコンビニで買う食料品の税率は1%へ下がる一方、外食産業の店内飲食は対象外となり、現行税率が維持される見込みだからです。
​この「食品1%」と「外食の現行税率」という歪みが、外食産業にどのような悪影響をもたらすのか。現場の深刻な課題を5つの視点から明確に問題提起します。
​① 外食控えと中食(テイクアウト・内食)への顧客流出
同じ食品でありながら、スーパーで食材を買ったりコンビニでお弁当を買ったりする場合は税率1%なのに対し、飲食店内で食事をすると高い税率が課されます。生活防衛意識が高まる中、消費者は「店で食べると損をする」と感じやすくなり、外食を控えて自宅で食べる内食や中食へ流れる動きが一段と加速します。
​② 価格競争力の低下と売上減少
スーパーの総菜やテイクアウト専門店との価格差が大きく開くため、居酒屋やレストラン、焼肉店などの実店舗は厳しい価格競合に晒されます。税率の差による価格感の違いから客数が減少し、店舗の売上や収益性を直接圧迫する要因となります。
​③ 店内飲食とテイクアウトの税率差による現場の混乱とコスト増加
持ち帰りと店内飲食で税率が変わることにより、レジシステムの改修費やメニュー表示の変更作業が発生します。さらに顧客との間での認識のズレやトラブル対応など、現場のオペレーション負担や管理コストが増大します。
​④ 仕入れと販売の税率差による原価圧迫と値上げの連鎖
外食店が食材を仕入れる際の税率が下がっても、調理・サービスを提供して店内飲食として販売する際の税率は高いままとなります。仕入れ側と販売側で税率の格差が生じることで利益構造が複雑化し、コスト吸収ができなくなった店舗は売価への転嫁(値上げ)を余儀なくされます。その結果、さらに客離れを招くという悪循環に陥ります。
​⑤ 個人店の「免税事業者」と「課税事業者」による価格・税負担の格差
飲食店には個人経営の免税事業者も多く存在します。インボイス制度の影響や今回の税率改定により、課税事業者である店舗と免税事業者である店舗の間で、税負担や価格設定における著しい格差や混乱が生じます。税制の違いによって価格競争力にアンバランスな差が生まれ、特に小規模な店舗の経営を直撃することになります。
​【飲食店の現実:生存率に見る厳しい出店ハードル】
外食産業はある程度のお店を出すための資本さえあれば参入できるため、非常に出店のハードルが低い業界です。しかし、見込みが甘いまま開業できてしまうからこそ、失敗する人が後を絶ちません。実際の店舗生存率データを見ても、その厳しさは一目瞭然です。
​・開業から1年経過:生存率 約60%(約4割が1年以内に撤退)
・開業から3年経過:生存率 約30%(約7割が3年以内に廃業)
・開業から5年経過:生存率 約15%(約8割5分が5年以内に消滅)
​このように、5年残れる店は10店舗中1〜2店舗という極めて残酷な世界です。
​【自然淘汰の先にある外食産業の正しい未来】
今回の税率差によって経営基盤の弱い外食事業者が淘汰されたとしても、経営力のある質の高い飲食店がすぐにその穴を埋めます。そもそも現在の日本は店舗数が過多な状態であり、少子高齢化が進み個人の所得も減っている中、外食市場全体が以前のように拡大することはありません。収入が少なくなってくれば、家で食事をとるのは必然的なことです。
​かつてのコロナ禍のように、過度な救済措置を使って無理に店舗を守っても、結局その数年後には潰れているのが実態です。経営力のない飲食店を行政が無理に守るのではなく、市場のメカニズムによる自然淘汰を進めるべき時期に来ています。
​むやみに飲食店をどんどん作る時代はもう終わりました。本当に強い飲食店だけが生き残ることで、そこで働いている人たちの給料も上がり、店舗の質も良くなり、味も向上します。淘汰の波を乗り越えた先にある「本物だけが生き残る外食産業の未来」こそが、健全な業界の発展につながるのです。