​今日は松戸方面から電車に乗り、横浜方面へ向けて思い出をたどる旅に出かけます。
​私は全盲の視覚障害者です。見えない状態での駅構内の移動や混雑した人混みを歩くことは、大きな負担や不安を伴います。そのため、今回のルート設定では「電車の乗り換えは明治神宮前駅の一回にする」「駅構内での段差や階段の移動も極力減らす」以上二点を最優先にしました。
​一方、無事に目的地へ到着した後は、安全で歩道がしっかり整備された平坦なコースを、健康維持のウォーキングも兼ねて自分の足でじっくりと歩きます。手に触れる感触、耳に届く音、鼻をくすぐる香りなど、全身の感覚を研ぎ澄ませながら昔の思い出を巡ります。
​​​《ポイント① 赤レンガ倉庫》
日本大通り駅または馬車道駅から平坦な歩道を歩き、最初の目的地である横浜赤レンガ倉庫へ向かいます。
​歴史と魅力:
明治末期から大正初期にかけて国の模範倉庫として建設された歴史的建造物です。1号館と2号館が並び、かつて横浜港の貿易を支えた重厚な煉瓦造りの佇まいが今も残されています。現在は文化・商業施設として再生され、クラシックな外観とモダンなショップが融合した横浜を代表する観光名所となっています。
​店内の様子と思い出:
館内には横浜ならではのおしゃれな雑貨店、洋菓子店、インテリアショップ、カフェなどが多数入っています。実際に目で見えなくても、小さなお店が賑やかに立ち並ぶ雰囲気や、焼き菓子の甘い香り、手に触れる雑貨の質感を味わうだけで胸が躍ります。昔、様々な人と一緒にこの場所を訪れた記憶が、潮風とともに鮮やかによみがえってきます。
​《ポイント②山下公園》
赤レンガ倉庫から海岸沿いの平坦で広い歩道をウォーキングしながら、山下公園へと移動します。
​歴史と魅力:
関東大震災の瓦礫を埋め立てて1930年に開園した日本初の臨床公園です。海に面した細長い敷地には美しい花壇や芝生が広がり、正面の海には国の重要文化財である「日本郵船氷川丸」が係留されています。潮の香りを感じながら安心して歩ける、横浜で最も気持ちの良い散策コースの一つです。
​思い出のベンチを探して:
今回の旅の大きな目的の一つが、この山下公園です。私は会社を創業する前、松戸市にあった中村製作所にサラリーマンとして在籍していた1年間がありました。その時代に、自分自身の手で穴を開けて組み上げた100kg以上ある鋳物(いもの)のベンチがあります。当時、海岸沿いに30脚ほど並べられたあのベンチが、今もこの場所で人々に利用されているかを確認してきます。
​ゴツゴツとした重厚な鉄の形状、手で触れれば自分が情熱を注いで作ったものかどうかが分かります。時代の流れとともに姿を変えているかもしれませんが、自分の手で記憶をたどる冒険の始まりです。
​《ポイント③中華街》
山下公園から12分ほど歩くと、日本最大級の横浜中華街へ到着します。
​歴史とトレンド:
1859年の横浜開港以来、多くの中国人貿易商や労働者が集まって形成された歴史ある街です。街の東西南北には立派な牌楼(門)が構えられ、異国情緒あふれる世界が広がっています。近年では伝統的な本格中華料理店に加え、手軽に楽しめる食べ歩きグルメやテイクアウトスイーツのトレンドが定着し、活気に満ちあふれています。
​ランチと食べ歩きの楽しみ:
かつて大切な取引先があり、仕事の後に工藤所長の親戚のお店へ伺って素晴らしい中華料理をごちそうになった思い出があります。今日はその温かい記憶を感じつつランチを楽しみます。さらに、街を歩きながら手に持つ温かい豚肉まんや、一口噛むと肉汁が溢れ出る小籠包・天津など、香りや味覚、触覚をフルに活用して中華街の食文化を満喫します。
​《ポイント④元町商店街》
中華街から川を渡り、徒歩で元町商店街(元町ショッピングストリート)へ移動します。
​歴史と魅力:
開港当時、外国人居留地に暮らす人々向けのお店が集まったことから始まった、横浜を代表する歴史ある高級ショッピング街です。日本のファッション文化「みゆき族」や「フクゾー」「ミヒロ」「キタムラ」に代表されるハマトラブームの発祥地であり、現在も洗練されたセレクトショップやブランド店、オリジナルジュエリーショップが美しく整備された石畳の通り沿いに並んでいます。
​ブランドの記憶:
元町は私にとって特別な思い入れがある場所です。以前、私が経営していたアパレルブランド(銀座1丁目デュープレックスタワーに本店を構えていたブランド)の洋服が、ここ元町のセレクトショップに陳列されていました。
​当時、自分の会社がデザインした洋服やジーンズが店頭に並んでいるのが嬉しくてたまらず、お店の人には何も言わずに黙って自分のブランドのジーンズを買い求めたことがあります。数日後、本社マーケティング担当から「元町店で商品がたくさん売れました!」と報告が入りましたが、実はその一部は私自身が買ったものでした。そんな懐かしくも少し誇らしい思い出の詰まったストリートを、靴底から伝わる街の振動とともに踏みしめて歩きます。
​10時に出発して18時に戻るという限られた時間の中で、五感を研ぎ澄ませながら昔の思い出をたどり、今の横浜の風を感じる素晴らしい冒険になりそうです。途中で出会える風景や新しい発見を楽しみに、いってきます。