福祉支援団体EYESROOM(アイズルーム)は、長年にわたり障害者や高齢者の皆様が安心して暮らせるための地域居住支援を現場の最前線で続けてまいりました。
​団塊の世代がすべて85歳以上を迎える2040年、日本の社会構造は大きな転換点を迎えます。厚生労働省の研究班(九州大学・二宮利治教授らによる推計)が公表したデータによると、2040年には65歳以上の高齢者のうち認知症の人が約584万人(高齢者の約15%・約7人に1人)、前段階である軽度認知障害(MCI)の人が約613万人に達すると推計されています。合わせると約1,200万人規模となり、高齢者の実に3人に1人が認知機能の問題を抱えて暮らす社会が到来します。
​逼迫する社会保障と都市部の単身高齢者問題
​現在、国の方針は限られた医療・介護保険制度の財源を維持するため、施設療養から「地域包括ケアシステム」への移行を明確に推進しています。病院のベッド数や介護施設の新規建設は削減傾向にあり、医療機関の経営破綻や倒産リスクも高まっています。その一方で、都市部では高齢者の単身世帯割合が40%に迫り、未婚化や核家族化の進行により「頼れる家族がいない」単身高齢者が急速に増えています。
​たとえご家族がいても、認知症が進行すると介護負担による共倒れや家庭内トラブルを引き起こし、家族だけで面倒をみることが不可能なケースが多発しています。
​私自身、現在は全盲となり現場の第一線からは退いておりますが、これまで多くの認知症患者の方々やその生活を直接見守ってまいりました。現場で発生する問題は、決しておとなしい症状ばかりではありません。
​鍵を何度も紛失して家に入れなくなる
​鍋の空焚きやたばこによる不始末で何度もボヤ騒ぎを起こす
​深夜に大音量でテレビやラジオを流し近隣トラブルになる
​いびき程度の生活音に対して隣の部屋の壁を叩き続ける
​アパートの窓から通行人に向かって怒鳴り散らす
​自宅の場所が分からなくなり徘徊して定期的に警察に保護される
​金銭管理ができなくなり、知らないうちに資産を失い生活困窮に陥る
​これらは認知症に伴う周辺症状(BPSD)として現れる現実的な事態です。車のアクセルとブレーキの踏み間違いはもちろん、道路への急な飛び出しなど、地域の交通安全や生活環境にも重大なリスクを及ぼします。
​特に単身世帯の場合、孤独死の危険と隣り合わせであり、自治体や既存の行政サービスだけでは対応が追いつかないのが実情です。
​EYESROOMが提言する 認知症対策と具体的な10の施策
​限定された行政予算と深刻な人手不足の中で、2040年問題を乗り越えるためには、行政の制度だけに頼るのではなく、地域社会での見守り構造の革新と、AIや最新テクノロジーの積極的な導入が不可欠です。
​以下に、我々が考える今後の具体的な10の対策を掲げます。
​1. 人工知能(AI)を活用した生活動線および室内センサー見守り
​単身高齢者住宅にAIセンサーを導入し、人感センサーやスマートメーターのデータを自動解析します。プライバシーに配慮しつつ、活動量の急減や異常な行動パターンを即座に検知し、孤独死の未然防止と早期発見を可能にします。
​2. 脱着不能型スマートGPSデバイスの装着標準化
​徘徊リスクの高い重度認知症の方に対して、本人では容易に外せないベルト型・リストバンド型の軽量GPSデバイスを導入します。迷子になった場合でも広域の位置情報検索システムにより数分単位で発見・保護できる体制を整えます。
​3. 地域包括ケアシステムと居住支援団体の強固な連携
​行政、ケアマネジャー、不動産事業者、そしてEYESROOMのような民間居住支援団体がリアルタイムで情報共有できるプラットフォームを構築します。賃貸住宅での入居拒否を無くし、孤独死リスクを抑えた安心感のある賃貸環境を提供します。
​4. 賃貸住宅におけるスマートロックと防災設備の自動化
​鍵の紛失や火災リスク対策として、暗証番号や顔認証で開錠できるスマートロックの導入、および一定時間の異常加熱で自動停止する安全機能付き調理器具・消火システムの設置を推進します。
​5. 認知症初期集中支援チームとテクノロジーの統合
​発症初期の段階から認知症専門職チームとAIアシスタントが連携し、早期の医学的アプローチと生活環境の調整を行います。進行を遅らせることで、重症化による社会的コストを大幅に抑制します。
​6. マイナンバー・デジタルIDと連動した金銭管理支援
​金銭管理が困難になった高齢者に対し、成年後見制度の利用促進とともに、AIによる異常取引検知や一日の利用限度額自動制限機能を備えたデジタル口座システムを活用し、詐欺被害や生活破綻を防ぎます。
​7. 近隣音響トラブルを防ぐ防音対策と住環境改善補助
​騒音トラブルを防止するため、音漏れを防ぐ防音内窓の設置や配慮型住宅への改修費用に対して、国の補助金制度や地方自治体の助成を拡大する取り組みを働きかけます。
​8. 自治体と民間警備・物流事業者が連携した「地域見守りネットワーク」
​郵便配達、宅配業者、電気・ガス検針員、民間警備会社と行政が提携し、日常業務の中で異変(郵便物の溜まり、照明の点灯しっぱなし等)を発見した際に即座に通報・駆けつけができる地域密着型インフラを構築します。
​9. 認知症サポーターの質的向上とテクノロジー連携
​既存の認知症サポーター制度を進化させ、地域住民が専用の捜索アプリや見守りアプリを通じて、徘徊SOSが出た際に迅速に捜索協力できるデジタル参加型のボランティア基盤を作ります。
​10. AI対話ロボットを活用した認知機能維持と孤独感解消
​単身世帯の室内にAI対話端末を導入し、毎日の会話を通じて脳への刺激を与えるとともに、会話の異常(回答の遅れ、辻褄の合わない発言)から認知機能の低下傾向を早期発見する早期アラート仕組みを導入します。
​誰もが住み慣れた地域で自分らしく暮らせる社会へ
​2040年に向けた認知症患者の増加は、個人や一家庭の問題ではなく、国全体の存続に関わる重大な課題です。
​我々アイズルームは、これまでの居住支援で培った経験と、最先端のテクノロジー、そして限られた予算を賢く活用する工夫を融合させ、たとえ単身で認知症になっても孤立せず、地域の中で安心して最期まで暮らしていける社会づくりのために、これからも提言と実践を続けてまいります。