本日は、私がかつて大手ハウスメーカーから顧客対応業務を請け負っていた際の大変貴重な経験についてお話しいたします。
​舞台は神奈川県中心部にそびえ立つ、駅直結のタワーマンションでした。今のようなマンションバブルが到来する前のお話ですが、当時からすでに「億ション」として知られ、誰もがその名を知る丸の内の大手デベロッパーが手掛けた物件です
​このプロジェクトには、日本有数の電機メーカーが製品を供給し、国内トップの配管メーカーが材料を提供、そして日本で四指に入る高名なゼネコンが施工を担当していましたまさにエリート企業4社が総力を挙げて作り上げた重厚なタワーマンションだったのです。
​しかし、この完璧に思えた住まいに、致命的な欠陥が見つかってしまいました。
​機密保持の義務があるため詳細を明かすことは避けますが、複数の要素が複雑に絡み合った結果であり、当時は裁判にも発展していた事案でした。
妥協のない仮住まいと資産管理の徹底
​このマンションを購入された方々は、医師や弁護士、一流メーカーの社員、地元の富裕層といった高所得者の方々です。私たちの役割は、お客様お一人おひとりに工事内容を丁寧にご説明し、修繕期間中の5日間から1ヶ月程度、仮住まいへお引越しいただくことでした。
​一軒あたりの作業費だけでも数百万円に及ぶ大規模な補修です。超高額なマンションゆえに、室内には特注のオーダー家具がしつらえてあり、それらを慎重に解体・再構築する柔軟な技術が求められました。
​特にお預かりするお荷物の管理には、極限まで気を配りました。
​徹底した環境管理: 当時所有していた自社倉庫は、24時間空調で温度・湿度を365日一定に保つよう設定。日差しが強い日や寒波の日は管理人が泊まり込みで確認を行いました。
​高度なセキュリティ: セコムのセンサーを随所に配置し、機械と人の目の両方で24時間監視体制を敷きました。
​資産の保護: 高級スーツやドレス、カビに弱い高価な家具などを、お預かりした時と同じ状態で元のクローゼットにお戻しすることを絶対の使命としました。こういったお預かり物に関しては、数億円の保険も掛けていました。
​引越し作業についても日本一の業者を手配し、仮住まい先でも普段と変わらぬ生活を送っていただけるよう、家電製品などの備品一つひとつにも配慮を尽くしました。
誠意をもって「日常」を取り戻すということ
​仮住まいとして用意したのは、月額賃料が30万円を超える、元のマンションに近い構造の物件です。これらを5箇所から7箇所契約し、家賃・光熱費・通信費・レンタル品だけで毎月約300万円ほど、合計で7年間にわたり維持し続けました。仮住まい中のあらゆるリスクも弊社が引き受けるという契約です。
お部屋ごとの改善工事費用は100万円から300万円にのぼり、全体では数十億円規模の巨大な改修プロジェクトとなりました。
​お客様に非がない以上、中には厳しいお言葉を投げかける方もいらっしゃいました。念願の高級物件を購入し、数年後に漏水が発生したとなれば、そのお怒りは当然のことです。​
当時の私の事業の一つは「リコール対応」でした。上場企業でリコールが発生した際、コールセンターの立ち上げから工事の手配、現場監督、交換完了の確認までを迅速に行う専門集団でした。
​リコールという事態において、お客様は必ずと言っていいほどお怒りになられています。そのお気持ちを受け止め、なだめ、工事を完結させる。それは50代の私にとって、非常にやりがいのある事業でした。
プロフェッショナルとしての誇り
​現在、私は全盲となり、当時の事業会社も整理いたしましたが、培ってきたリコール対応のノウハウは今も私の中にあります。現在は顧問的な立場で、必要な時にアドバイスをさせていただいております。
​どんなに素晴らしい高層ビルであっても、最後は人の手によって作られるものです。だからこそ、今回のような修繕が必要になる局面も避けられません。
​そんな時、お客様に深く頭を下げ、一日も早く不具合を取り除き、平穏な日常を取り戻していただく。そのような仕事に携わっていたことを、私は今でも心から誇りに思っています。