​こんにちは。松戸市視覚障害者協会で副会長を務めております、石原です。
​先日、南日本新聞で、視覚障害者の外出を支援する「同行援護(どうこうえんご)」という福祉サービスの現状と課題を伝えるニュースが報じられました。この記事は鹿児島県の実態を取り上げたものでしたが、そこで浮き彫りになった課題は、私たちが暮らす首都圏、そして日本全国に共通する極めて深刻なものです。
​今回は、この記事が伝えるメディアの視点と、私自身の当事者としての経験を重ね合わせながら、同行援護の重要性とこれから必要な変革について深く考察してみたいと思います。
​南日本新聞の記事では、緑内障を患う67歳の女性がヘルパーの腕につかまりながら街を歩き、「安心して歩ける。不安だった外出が楽しみになった」と語る様子が紹介されています。同行援護は、視覚障害者が安全に移動できるよう、ヘルパーが周囲の状況を「目」の代わりに説明し、買い物や通院、さらには余暇活動までをサポートする命綱のような制度です。
​しかし同記事は、この素晴らしい制度が直面している「2つの大きな壁」を指摘しています。
1つは、制度そのものの認知度の低さです。鹿児島県内には約6000人の視覚障害のある手帳所持者がいますが、実際に同行援護を利用しているのはわずか468人にとどまります
もう1つは、深刻なヘルパー不足と事業所の減少です。同県内の事業所数は2017年から20箇所以上も減少し、ヘルパーを養成する研修の受講者数もピーク時の約3割にまで落ち込んでいるといいます。
​この「制度が知られていない」「担い手が足りない」という現実は、決して遠い地域の他人事ではありません。私自身、全く同じ壁にぶつかった当事者の一人です。
​私は今から8年ほど前、重度の視覚障害となり、身体障害者2級の手帳を取得しました。当時は会社を経営していたこともあり、周囲には常にサポートしてくれるスタッフや仲間に恵まれていました。そのため、「同行援護」という公的なシステム自体を全く知らず、使う機会もありませんでした。
​しかし、その後の5年間で私の目の状態はさらに悪化し、身体障害者1級、つまり全盲に近い状態となりました。こうなると、いくら周囲の善意があっても、限界が生じます。プロフェッショナルによる専門的なサポートが不可欠となり、私は初めて役所の障害福祉課に相談し、同行援護の利用を模索し始めました。
​ところが、ここで大きな現実に直面します。私が住む松戸市内にもいくつかの同行援護サービス事業所は存在していたものの、私の活動や要望に合致する事業所を見つけることができなかったのです。結果として、隣接する東京都足立区にある比較的大きな組織の事業所に登録をすることになり、ようやく実際のサービスを受けられるようになったのは、相談を始めてから実に8ヶ月も経った後のことでした。
​現在では、会社のスタッフによるサポートと、公的サービスである同行援護を状況に応じて賢く使い分けることで、私の世界は大きく広がりました。健康促進のための活動をはじめ、地域へのボランティア活動、さらには人道支援など、以前と変わらない、あるいはそれ以上のバイタリティで社会貢献活動に参画できています。
​この経験から私が強く訴えたいのは、同行援護は単なる「移動の補助」ではなく、視覚障害者の「人生の可能性を広げる鍵」であるということです。もしこのサービスに繋がることができなければ、多くの視覚障害者は自宅に閉じこもりがちになり、人生の活動範囲が狭まってしまいます。社会との接点を失わないために、まずはこの制度を世の中の多くの人に知っていただかなければなりません。
​そして同時に、この記事が指摘する「担い手不足」を解消するための、具体的な仕組みづくりが必要です。私は、同行援護という仕事のあり方や、制度のハードルを次のように見直すべきだと考えています。
​まず第一に、資格取得にかかる経済的ハードルの緩和です。同行援護のスタッフとして働くための研修制度には、受講費用という自己負担が発生します。この負担を軽減するため、費用の半分を国の補助金で補えるような、公的な支援システムを確立すべきです。入り口を広げることが、新しい人材を呼び込む一歩になります。
​第二に、働く側の多様なマッチングの推進です。現在、現場を支えているスタッフは比較的年齢層が高く、高齢による引退で現場を去る方が少なくありません。
しかし、この同行援護というお仕事は、短い時間からでも稼働でき、重い荷物を持つような激しい肉体労働でもありません。そのため、家事や育児の合間に時間を有効活用したい主婦の方にとって、非常に働きやすい環境です。
また、学生の方にとっても、学業のスケジュールに合わせて空いた時間を活用できます。一度資格さえ取得してしまえば、自分のライフスタイルに合わせて働ける、極めて優秀な「隙間バイト(スポットワーク)」としてのポテンシャルを秘めているのです。
​もちろん、これを本業の専門職として誇りを持って取り組まれている方もたくさんいらっしゃいます。福祉の現場において、人の「目」となり、その人の人生の歩みを支えるこの仕事は、社会的な意義が極めて高く、大きなやりがいに満ちています。単なる労働を超えた、人間味あふれる素晴らしいお仕事として、もっと多くの方にポジティブに知っていただきたいと切に願っています。
​メディアが報じる現状への危機感と、私たちが現場で感じる必要性。これらを結びつけ、持続可能なサポート体制を作っていくことは、これからの共生社会において避けては通れない課題です。
​視覚障害者が一歩を踏み出し、社会の中で生き生きと輝き続けられる未来のために。同行援護という光が、それを必要とするすべての人に届くよう、これからも発信と活動を続けてまいります。