【読書の歓びを取り戻してくれた作家・朝倉宏景の世界とデイジー図書の魅力】

      

【読書の歓びを取り戻してくれた作家・朝倉宏景の世界とデイジー図書の魅力】

写真の左側が視覚障害者専用の書籍読み上げデイジー図書機械。トレーに乗っているCDは朝倉宏影-日向を掬うの作品です。

私は若い頃から本を読むことが一番の楽しみでした。新刊の本が好きで一度に4冊ほど買い求めることもありましたが、お小遣いにも限界があるため、週に一度は古本屋(ブックオフ)へ通い、一気に5、6冊をまとめ買いしていたものです。目が見えていた頃は、良し悪しは別として斜め読みも交えながら、1日に1冊のペースで本を読み耽っていました。
​そんな読書三昧の日々を過ごしていたなか、視覚障害者となり身体障害者手帳をいただいたのが8年前のことです。それからはYouTubeなどの音声を聴いて過ごしていましたが全盲となった2年前から本格的にデイジー図書に取り組むようになりました。
​デイジー図書(DAISY:Digital Accessible Information System)とは、視覚障害者や印刷物を読むことが困難な方のために作られたデジタル録音図書のことです。CD1枚に一冊分の音声データが収録されており、目次から好きな章へ跳んだり、再生速度を変更したりしながら快適に読書を楽しめる仕組みになっています。
​私は夜中に仕事をすることも多いのですが、毎日欠かさず5時間以上、長い時には7時間から9時間ほどデイジー図書を聴いています。ほぼ毎日1本のペースで作品を聴き進めており、日々のサポートをしてくださる千葉県視覚障害者福祉協会(点字図書館)のデイジー図書担当の方には、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。デイジー図書を聴くことは、いまや私の人生にとって欠かすことのできない非常に大切な要素となっています。
​今回聴き終わった作品は、朝倉宏景さんの『日向を掬う』です(福岡市立点字図書館制作、収録時間9時間46分)。
​朝倉宏景さんは、視覚障害者の女性と彼女を支える伴走者の物語を描いたマラソン小説『風が吹いたり、花が散ったり』で大きな文学賞を受賞された実力派の作家です。
​普段、私がさまざまな本を聴いて「当たり(本当に面白い)」と感じるのは全体の4分の1、つまり25パーセント程度です。しかし、朝倉作品はその約7割が非常に面白く、外れが滅多にありません。これほど高い確率で心に刺さる作品を生み出してくれる作家は稀であり、ここ3週間ほどの間で朝倉さんの作品を10本以上も聴き続けています。
​ここで、作家・朝倉宏景さんのプロフィールと経歴、そして正確な主な作品10選をご紹介します。
​作家プロフィールと経歴
氏名:朝倉 宏景(あさくら ひろかげ)
生年:1984年生まれ
出身地:東京都
学歴:東京学芸大学教育学部卒業
経歴:元高校野球児でポジションはセカンド。大学卒業後、会社員やアルバイト生活を経験しながら執筆活動を続けました。2012年に『白球と爆弾』で第7回小説現代長編新人賞奨励賞を受賞し、翌2013年に同作を『白球アフロ』と改題して作家デビュー。2018年には視覚障害者マラソンと伴走者をテーマにした『風が吹いたり、花が散ったり』で第24回島清恋愛文学賞を受賞。2022年には甲子園球場のグラウンド整備を担う阪神園芸をモデルにした『あめつちのうた』で第1回ひょうご本大賞を受賞するなど、青春・スポーツ・お仕事小説を中心に高い評価を得ています。
​朝倉宏景さんの主な作品10選
​白球アフロ(2013年)
デビュー作。ハーフの選手が加入した高校野球部を描いた青春野球小説。
​野球部ひとり(2014年)
部員減少に悩む高校野球部が他校と合同チームを結成して挑む胸熱な野球小説。
​つよく結べ、ポニーテール(2015年)
高校の女子野球部や球児たちを取り巻く人間模様を爽やかに描いた作品。
​風が吹いたり、花が散ったり(2017年)
第24回島清恋愛文学賞受賞作。視覚障害を持つ女性と、過去に過ちを抱えた青年の伴走者としての交流を描いた感動長編。
​僕の母がルーズソックスを(2019年)
家族の絆や葛藤を温かくも切なく描いたホームドラマ小説。
​空洞電車(2020年 / 文庫題『空洞に響け歌』)
孤独を抱える若者たちの葛藤と成長を描いた青春小説。
​あめつちのうた(2020年)
第1回ひょうご本大賞受賞作。阪神甲子園球場を支える阪神園芸をモデルに、裏方として働く人々の意地と誇りを描いた傑作お仕事小説。
​日向を掬う(2021年)
今回私が聴き終えた作品。登場人物それぞれの苦悩と再生を丁寧に掬い取った味わい深い長編
​エール 夕暮れサウスポー(2021年)
プロ野球から戦力外通告を受けた選手たちの再出発と苦悩を描いたスポーツ人間ドラマ。
​サクラの守る街(2023年 / 文庫題『今日も事件が起きませんよう。』)
地域を守る警察官たちの日常と葛藤をリアルに描いた人間味あふれるお仕事ミステリー。
​朝倉作品の共通点と魅力の考察
朝倉宏景さんの作品を深く読み解くと、いくつかの明確な共通点が浮かび上がってきます。
​第一に、「スポットライトが当たりにくい裏方や、挫折を抱えた人々への温かな眼差し」です。スポットライトを浴びるスター選手だけでなく、戦力外通告を受けた選手、グラウンドを整備する職人、障害や過去の過ちを抱えて生きる人々など、現実の厳しさに直面しながらも懸命に生きていく人たちの泥臭い努力や心の動きが非常にリアルに描かれています。
​第二に、「スポーツや現場に対する緻密な取材と圧倒的なリアリティ」です。ご自身が野球経験者であることからくる競技描写の確かさはもちろんのこと、阪神園芸や視覚障害者の伴走者といった専門的な世界も深く取材されており、読者はまるでその現場に立っているかのような臨場感を味わうことができます。
​第三に、「人間に対する真摯で誠実な肯定感」です。ドラマチックな奇跡や都合の良い展開だけに頼らず、人は弱さや悩みとどう向き合い、他者とどう手を取り合って前へ進むのかという葛藤が丁寧に紡がれています。読後には静かですが確かな希望が残ります。
​朝倉宏景さんの作品は、特に次のような方々に強くおすすめいたします。
スポーツが好きで汗や情熱の描写に心躍らせたい方
若い人の瑞々しい感覚や葛藤のリアルさに触れたい方
奇をてらった展開よりも、誠実でまっすぐな人間ドラマを味わいたい方
​目が見えなくなっても、デイジー図書を通じてこのような素晴らしい作品や作家に出会えたことは、私の日常に大きな彩りと生きがいを与えてくれています。ぜひ多くの方に、朝倉宏景さんの作品を手に取っていただければ幸いです。 
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