​医療機関をめぐる異常事態と経営危機の構造的真実
​病院やクリニックの待合室には変わらず多くの患者さまのお姿があり、地域における医療ニーズは確実に存在しています。しかし、そうした見た目の賑わいとは裏腹に、医療機関の休廃業や倒産がかつてないペースで急増しているのが現実です。
​一般の商業ビジネスであれば「お客様が来ている状態」は好業績を意味しますが、公的保険診療を主軸とする医療業界においては、その常識が通用しなくなっています。どれほど多くの患者さまが来院されても、構造的な制約によって経営が成り立たなくなってしまうという非常に深刻な状況が、今まさに現場で起きています。
​最新データが示す医療機関の倒産・休廃業ラッシュ
​帝国データバンクをはじめとする民間信用調査機関の最新集計によりますと、2025年における全国の医療機関(病院、診療所、歯科医院)の倒産件数は66件、自主的な休廃業・解散は823件に達し、いずれも2年連続で過去最多を更新いたしました。
​さらに2026年上半期(1月〜6月)における医療機関の倒産件数は39件を記録しており、前年同期(35件)を上回って上半期としての過去最多ペースを更新しています。このまま推移いたしますと、年間の倒産件数は史上初めて80件台に達する勢いを見せています。特に地域の身近な医療を担う診療所(クリニック)の倒産や自主廃業が目立っている点が大きな特徴です。
​なぜ「患者さまがいるのに」経営が破綻してしまうのか
​患者さまの数が維持されているにもかかわらず、急激な倒産や閉院が相次ぐ背景には、医療特有の収益構造と近年の急激な社会環境の変化が存在しています。
​物価・人件費高騰と「公定価格」の構造的不整合
一般企業であれば、原材料費や燃料費が高騰した際に製品やサービスの価格へ転嫁し、収益を確保することができます。しかし、医療機関の収入である「診療報酬」は国が一元的に決定する公定価格であり、個々の医療機関が自由に価格を変更することはできません。
2.09%や3.09%といった診療報酬の引き上げ改定が行われたものの、近年の歴史的な物価高、光熱費の高騰、医療用資材の値上がり、さらには他業種との人材獲得競争に伴う人件費の上昇スピードにはまったく追いついていません。その結果、「診察を行えば行うほど利益が削られ、赤字が膨らむ」という逆転現象が発生しています。
​深刻な人材不足と派遣費用などのコスト増大
医療・看護・介護スタッフの人手不足は決定的な段階を迎えています。人手不足に伴い、外部の医療人材派遣に頼らざるを得ない病院やクリニックが増加しており、その紹介手数料や派遣人件費が経営を強烈に圧迫しています。必要なスタッフを確保できず、稼働できる病床や診療時間を削らざるを得なくなり、減収とコスト増の二重苦に陥るケースが多発しています。
​経営者の高齢化と事業承継の限界
診療所の院長先生や理事長先生の高齢化が進む一方、過重な経営リスクや赤字構造を懸念して後継者が見つからない「後継者難」の深刻化も大きな理由です。資金繰りが破綻する前に、手元資金がある段階で自主的に事業を終了する休廃業を選択されるケースが急増しています。
​福祉支援団体EYESROOM(アイズルーム)としての問題提起
​こうした医療機関の急激な減少は、単なる一事業者の撤退という問題にとどまりません。地域から病院やクリニックが消滅することは、そこに暮らす高齢者の方々、障がいをお持ちの方々、要介護者といった生活弱者の方々が、必要な医療やケアを受ける権利を奪われることを意味しています。
​私ども福祉支援団体EYESROOM(アイズルーム)は、従来の「公的制度や公的支援のみに依存した社会インフラ」の持続可能性に対して、強い懸念と問題意識を投げかけております。制度の不備や物価高の波に呑み込まれ、地域の安全網が崩壊していく中で、最も不利益を被るのは常に弱い立場に置かれた方々なのです。
​医療と福祉、そして日々の暮らしの拠点である住宅支援は分断されたものではなく、ひとつの地域生活基盤として統合的に守られなければなりません。
​EYESROOMが取り組むべき今後の提言と展望
​制度の限界や経済の混乱によって地域社会のセーフティネットが瓦解していくのを、私どもは手をこまねいて見過ごすわけにはまいりません。EYESROOMは、今後果たすべき役割として以下の提言を掲げ、実行に移してまいります。
​第一に、医療と福祉、そして住宅を密接につなぐ「地域生活プラットフォーム」の構築です。
医療機関の閉院が進む地域におきまして、医療アクセスを途絶えさせないためのサポート態勢が必要となります。EYESROOMでは、高齢者や障がい者の方々が安心して暮らせる住まい(福祉賃貸等)の供給を軸としながら、在宅医療や訪問看護・介護サービスと密に連携する基盤を作り上げ、医療機関の減少による影響を最小限に抑える取り組みを進めてまいります。
​第二に、制度だけに頼らない「民間自立型の包括支援モデル」の確立です。
公定価格や行政の補助金だけに依存した仕組みは、今回のような物価高や構造変化に対して脆弱であることが立証されました。事業としての自立性を保持しながら、不動産支援、生活支援、さらには障がい者の方々の就労支援や独立起業支援までを網羅する多角的なアプローチにより、社会の歪みによって生じた課題を自力で解決できる強固な支援体制を創出いたします。
​第三に、地域の危機的実態に対する啓発と、地域循環型社会の形成です。
「患者さまがいるから大丈夫」という楽観的な認識を改め、地域医療や福祉の崩壊がすぐ身近に迫っている現実を正しく情報発信してまいります。そして地域住民の皆様、民間企業、福祉事業者が一体となり、互いに支え合える自律的な地域コミュニティの再構築をリードしてまいります。
​制度の限界によってこぼれ落ちてしまう方を一人たりとも見捨てません。EYESROOMは、時代の激変に対応した新たな福祉と生活基盤のあり方を提示し、すべての人が人間らしく安心して生きられる社会の実現に向けて挑み続けてまいります。