​20代で起業し、日本各地主要都市に支店を構え、全国を飛び回る中で数えきれないほどのビジネスホテルを利用してきました。宿選びは単なる宿泊以上の意味を持ちます。最近、ふと目にした「ホテル日本一」の論争。東横INNとアパホテルの双方が掲げる「No.1」の称号ですが、その中身を紐解くと、両者のあまりに異なる経営思想が見えてきました。
​まず、私たちが直感的に感じる「日本一」の基準についてです。
​現在、実際に稼働している国内の客室数で純粋に比較すれば、軍配は東横INNに上がります。一方、アパホテルがアピールする「日本一」には、建設中の物件や、単に予約システムを共有しているだけの提携ホテルまで含まれています。ビジネスの現場を長年見てきた身からすれば、未完成の箱や他人の城まで自らの実績としてカウントする手法には、確かに強引な違和感を禁じ得ません。
ここで、両社の成り立ちと歩んできた道を対比してみましょう。
​東横INNは、まさに「宿泊特化型」の完成形です。かつて不適切な改造問題などで社会的な批判を浴びた時期もありましたが、その後は徹底した標準化を追求しました。全国どこへ行っても同じ間取り、同じ朝食、同じ安心感。この「金太郎飴」のような安定感こそが、出張族の信頼を勝ち取った源泉です。
​対するアパホテルは、強烈な個性を放つ「エンターテインメント型」と言えます。かつての耐震偽装問題という大きな逆風すらも、圧倒的な拡大スピードと元谷夫妻の強烈なキャラクターで塗り替えてきました。彼らにとっての「日本一」は、実数よりも「勢い」や「ブランドの支配力」を示すための旗印なのでしょう。
​興味深いことに、この対照的な二社には共通点もあります。それは、どちらも創業者から子世代へと経営権を継承している「同族経営」であるという点です。
​東横INNは創業者の長女が、アパホテルは長男がそれぞれ社長に就任し、次世代の舵取りを担っています。今の時代、同族経営は「古い」「公私混同」とネガティブに捉えられがちです。しかし、ビジネスホテルのような装置産業において、同族経営は必ずしも悪ではありません。
​数十年単位での投資が必要なホテル経営において、数年で交代する雇われ社長では、大胆な意思決定やブランドの維持が難しい側面があります。親の背中を見て育ち、現場の苦労を知る二代目が、創業者のDNAを継承しつつ、IT化やグローバル展開という新しい血を注ぎ込む。この執念に近い継続性こそが、大手チェーンをも寄せ付けない圧倒的なシェアを生んでいるのも事実です。
​本当の意味での日本一はどちらか。
数字上の勢いや華やかさを求めるならアパホテルかもしれません。しかし、一歩一歩着実に自社の城を築き、全国どこでも変わらぬサービスを提供する誠実な積み上げを評価するなら、やはり東横INNにその称号を贈りたいと私は感じます。
​建設中の看板ではなく、今そこにある一室の価値。長年、日本中の夜をホテルで過ごしてきた一人の経営者として、数字の裏側にある「経営者の姿勢」を問い続けたいと思います。