通信業界に激震が走る驚くべきニュースが飛び込んできました。現在、国内の携帯電話事業において、NTTドコモ、au、ソフトバンクの牙城を崩せず、巨額の赤字を垂れ流しながら4番手の位置に甘んじている楽天グループが、驚くべき新計画を発表したのです。なんと、アメリカの新興企業であるASTスペースモバイルと合弁会社を設立し、独自の低軌道衛星を購入して自前の宇宙通信網を構築するという、あまりにも壮大な挑戦です。政府の最大1500億円規模のインフラ整備補助金を見据えた動きであるとはいえ、世界を牛耳るイーロン・マスクのスターリンクに真っ向から勝負を挑むというこの計画は、一見すると無謀の極みと言わざるを得ません。
​私自身、このニュースを目の当たりにした時、深い感慨とともに、ある種の不気味な既視感を覚えずにはいられませんでした。というのも、私を代表とするアイズルームの歴史、そして私自身のビジネスの歩みは、今回名前の上がったソフトバンク、そして楽天という二大巨頭の黎明期と、偶然にも深く交わっていた時期があったからです。
​時計の針を大きく巻き戻すと、ソフトバンクがまだ日本を代表する大企業になる遥か前、ソフトウェアのパッケージ販売を主軸としていた小さな時代に遡ります。大阪の上新電機のフロアで、ソフトバンクがパッケージソフトを売り込んでいたまさにその同じ場所で、私の経営するPCサービスステーションがソフトウェアの顧客対応やサポートを行っていました。その後、ソフトバンクがそのパッケージソフト販売を日本全国へ一気に拡大するキャンペーンを展開した際、その一翼を担う人材派遣を行ったのが、当時の私の会社だったのです。孫正義氏がまだ何者でもなかった時代、その凄まじい熱量と拡大のエネルギーを、私は最も近い現場で肌で感じていました。
​さらに楽天とも、忘れられない深い因縁があります。当時、私は富士通系列の資本を受け、グローバルシステムズで「一楽商店」という電子モールの立ち上げを行いました。インターネットビジネスの黎明期、私たちのスタートは楽天と比べても全く遜色がないほど、勢いのある滑り出しを見せていました。しかし、激しい競争の末に、時代の荒波を生き残り、巨大な帝国を築き上げたのは楽天だけでした。私のビジネスモデルは、日本のネット・通信の歴史を作ったこの2社と、まさに同じ地平でしのぎを削り、深く関わってきた歴史があるのです。だからこそ、今回の楽天の動きが持つ意味の重さと、そこに潜む危うさが、単なるニュース解説以上のリアルな感覚として伝わってきます。
​現在の楽天の経営状況は、誰の目から見ても潰れそうなほどに厳しい崖っぷちにあります。地上での顧客獲得に苦戦し、既存の電波塔を自前で十分に確保できないがゆえに、ライバルであるauの電波塔を借りて高額な賃貸料を支払わざるを得ないという構造的な弱みを抱えています。そんな資金繰りも逼迫するどん底の状況の中で、さらなる巨額の投資が必要となる宇宙産業通信に打って出ることが、どれほど危険な賭けであるかは火を見るより明らかです。
​しかも、楽天が対抗しようとしている相手は、日本の3大キャリアのような国内の競合レベルではありません。宇宙開発の絶対王者であり、圧倒的な資金力と技術力を誇るイーロン・マスク率いるスターリンクです。すでに国内の上位3大キャリアは、このスターリンクと次々に提携を結び、日本国内での衛星通信サービスをいよいよ本格的にスタートさせています。ライバルたちがすでに王者のインフラを取り込んで前進している中で、楽天だけが孤立無援のまま自前の衛星を宇宙に打ち上げて網を作ろうというのです。
​しかし、この無謀とも思える戦いの裏には、最先端技術がもたらす破壊的イノベーションの本質が隠されています。スターリンクをはじめとする低軌道衛星通信がもたらす真の恐怖はこれまで日本の携帯キャリアが何兆円もの巨費と長い歳月を投じて築き上げてきた、日本全国の地上の電波基地局という存在そのものを、空の上から一瞬で無力化してしまう可能性を秘めている点にあります。
​もし、宇宙から直接スマートフォンへ電波が届く時代が完全に到来すればユーザーはわざわざ既存の電話会社と高い月額契約を結ぶ必要がなくなるかもしれません。中継役としての通信キャリアという存在自体が不要になり、中抜きの形で直接宇宙とつながる世界がやってくる。そうなれば、山の上であろうと、広大な海の上であろうと、地球上のあらゆる場所で遮るものなく、ものすごいスピードで次世代の超高速通信ができるようになります。これは、私たちがこれまで当たり前としてきた通信のビジネスモデルが、根底から崩壊することを意味しています。
​地上の戦いで敗色濃厚となった楽天が、この通信業界のルールそのものがひっくり返る大激変を見据え、あえて宇宙という未来の戦場へ先回りして全財産を賭けたのだとしたら、その大バクチのスケールの大きさには凄みすら感じられます。かつて「一楽商店」のライバルとして、凄まじい執念で生き残ってみせた三木谷氏の経営哲学を知るからこそ、これが単なる破滅への暴走なのか、それとも歴史の大逆転を狙った奇跡の一手になるのか、私は強い関心を持って注視しています。
アイズルームとしてこの最先端技術の融合と経営戦略を深く考察するとき、見えてくるのは、過去の成功体験にしがみつくことの危うさと、常に変化の先頭に立ち続けなければ生き残れないというビジネスの冷徹な現実です。私たちの常識を遥かに超える宇宙通信の時代は、すぐそこまで来ています。この時代の転換期を、単なる傍観者としてではなく、自らの経営をアップデートする絶好の教訓として捉えることこそが、今を生きる経営者に求められているのです。