手話については多くの方がご存じだと思いますが、指点字というコミュニケーション手段があることをご存じでしょうか。先日、私自身も盲ろうのイベントに参加し、盲ろう者の方と直接会話をする中で体験する機会がありました。視覚障害がある私でさえ詳しく知らなかったのですから、一般の方であればなおさら目に触れる機会が少ないかもしれません
​指点字は、手話のバリエーションというよりも、その名の通り点字の仕組みをそのまま手や指を使った会話に応用したものです。
​ここでは、指点字がどのようなもので、誰がどんな目的で使っているのか、そしてどのようにして誕生したのかという歴史的背景まで、わかりやすく解説します。
​指点字とはどのようなものか
​指点字は、盲ろう者(視覚と聴覚の両方に障害がある人)とコミュニケーションをとるための手段の一つです。
​点字は通常、紙の上に打たれた6つの点の組み合わせを指先で触って読み取ります。指点字では、この6つの点を「人間の指」に見立てます。
​送信者は、受信者の両手の人差し指、中指、薬指の計6本の指を自分の指で直接トントンと叩くことで、点字のパターンを伝えます。
​左手の人差し指(1点)
左手の中指(2点)
左手の薬指(3点)
右手の人差し指(4点)
右手の中指(5点)
右手の薬指(6点)
​たとえば、「あ」という文字は点字で1の点だけを使います。そのため、相手の左手人差し指を1回トントンと叩けば「あ」と伝わります。点字の五十音規則を知っている人同士であれば、通訳機器などを介さずに、直接かつ非常にスピーディーに会話を行うことができます。
​どういう人がどういう目的で使っているのか
​指点字の主な利用者は、視覚と聴覚の双方に重度の障害を持つ盲ろう者です。
​盲ろう者の中には、見えにくさと聞こえにくさの程度によって様々なタイプが存在します。光や音が全く分からない全盲ろうの方もいれば、少し見えたり聞こえたりする方もいます。
​音声での会話や、目で見える手話が困難な場合、触覚を頼りに情報をやり取りする必要があります。指点字を使う目的は以下の通りです。
​日常のコミュニケーション
家族や友人、通訳介助者との雑談や意思疎通を行うため。
​リアルタイムな情報取得
会議や講演会、イベントなどで、今何が起きているか、誰が何を話しているかをその場でリアルタイムに把握するため。熟練した人同士では、話し言葉に近い速度で指点字を打ち合い、情報を伝達できます。
​意思表示と社会参加
自分の意見を外部に伝え、買い物や手続き、仕事などの社会活動に参加するため。
​どのような人が指点字を発明したのか(由来とエビデンス)
​指点字は、ある一人の盲ろうの少年の母による工夫と愛情から生まれました。
​発明者
福島令子(ふくしま れいこ)氏
​誕生の背景
令子氏の息子である福島智(ふくしま さとし)氏は、9歳で右目を失明、18歳で左目も失明し、全盲ろうとなりました。
​1981年(昭和56年)12月25日、東京都内の病院に入院中だった智氏のもとを訪れた母の令子氏は、光も音も奪われた息子とどのようにコミュニケーションをとるか模索していました。その際、智氏の両指を点字タイプライターのキーに見立てて、直接指を叩いて言葉を伝えることを思いつきました。これが指点字の始まりです。
​歴史的・社会的エビデンス
福島智氏はその後、盲ろう者としてアジアで初めて大学教授(東京大学先端科学技術研究センター教授)となり、日本盲ろう者協会の設立や障害者権利条約の批准に向けた活動など、障害者福祉の分野で世界的に活躍しています。
​母・令子氏が考案した指点字は、智氏が大学の授業を受け、研究を続け、社会とつながり続けるための決定的な原動力となりました。現在では、日本全国の盲ろう者や通訳介助者の間で標準的なコミュニケーション手段の一つとして広く普及しています。
​まとめ
​指点字は単なる文字の代用品ではなく、光と音を失った人と世界を結ぶ、優しく強力な架け橋です。
​紙の上の点を指先で読む点字から、人の指の上に直接点を打つ指点字へ。言葉を指の振動に変えて伝えるこの発明は、多くの盲ろう者の可能性を広げています。
​この記事を通じて、一人でも多くの方に指点字の存在と、それを支える技術や思いを知っていただければ幸いです。