​趣味は何ですか。そう聞かれたとき、私はいつも少しだけ答えに窮していました。なぜなら、私には世間一般で言うような趣味が本当にないからです。
​私は18歳で就職し、その会社で若くして所長にまで昇り詰めました。武者震いするような野心を抱き、20歳のとき、確かな医療機械のソフトウェアの技術開発力を武器に、明確な戦略と十分な資本を備えた上で会社を設立しました。事業は初年度から8,000万円の売上を達成するなど、最初から高い次元でのスタートを切ることができたのです。
​それからの40年間、私はすべての情熱と時間をビジネスという場所に注ぎ込んできました。若かりし頃の動機は、今振り返れば浅はかな欲望だったのかもしれません。大きなお城のような家に住みたい、誰も乗ったことのないような高級車を乗り回したい、誰もが振り返るような美しい女性と時間を過ごしたい。そんな男の妄想のような夢をエネルギーに変えて、1日も休まず会社に泊まり込み、がむしゃらに努力を積み重ねてきました。
​その執念が実を結んだのは、人生の中盤を迎えた頃のことです。それまでの絶え間ない努力が大きな形となり、人生の中盤における10年間ほどは、若い頃に妄想のように描いていた夢のような世界を、ひとときの確かな現実のものとして謳歌することができたのです。
​しかし、その栄華を現実として味わったからこそ、自らの環境や時代の背景が変わるにつれて、私の内面にもさらに大きな変化が訪れました。そこから人生の後半に向かうにあたり、私の関心は私利私欲を満たすことから、「自分は何のために生きているのか」「人のために何ができるのか」という、社会貢献への道へと大きくシフトしていきました。
​周りの同世代を見渡すと、ゴルフやテニス、カラオケ、あるいは短歌などの文化的な活動など、それぞれが素敵な趣味を楽しんでいます。私も元々は運動部にいたこともあり、実際にそれなりの練習を重ねた上でゴルフコースを回ったり、地元のテニスクラブに入って汗を流したりもしました。何をやってもそつなくこなすことはできましたが、いくら白球を追いかけても、私自身の心に響くような充実感や達成感は、そこには全くありませんでした。
​ここで、「スポーツだって仲間が集まって、みんなで一緒に楽しめる素晴らしい場所じゃないか」という声が聞こえてくるかもしれません。確かにその通りですし、趣味を通じて生まれる人の輪や連帯感の素晴らしさを私は微塵も否定しません。しかし、私自身が心から求めているのは、単に楽しさを共有する「趣味の仲間」ではなかったのです。私にとって本当の生き甲斐とは、一つの崇高な思いに向かって進み、困っている人や世の中の手助けになるような集団を自らの手で形成していくことに他なりませんでした。
​私が心の底から大きな幸福感を得られるのは、まさにその集団の中で汗を流す瞬間です。松戸市視覚障害者協会(松視協)や赤十字での社会活動やボランティア、そしてEYESROOMでの福祉支援などを通して、多くの人々と対話を重ね、意見を汲み交わし、同じ方向を向いて組織を発展させていく。その延長線上にしか、私の本当の喜びはありませんでした。自分一人のために汗を流し、個人の収入を高めることには、私の価値観はすでに意味を見出せなくなっていたのです。
​つまり、私にとっての趣味とは「仕事」と「ボランティア(福祉活動)」の二つに他なりません。この二つの違いは、営利目的か非営利目的かという点だけです。ただし、ボランティア活動を継続するためには、運営の維持費や交通費など、最低限の活動費がどうしても必要になります。
​そこで行き着いたのが「ソーシャルビジネス(Social Business)」という考え方です。
​ソーシャルビジネスとは、社会が直面している課題や必要としていることを、単なる慈善活動としてではなく、持続可能な「ビジネス(営利事業)」として解決していく手法のことです。現場で得た事業の利益をさらに社会へ還元していく。その還元の現場こそが、人道支援や社会貢献といった非営利の活動になります。
​このソーシャルビジネスという概念は、今や国際的なスタンダードとして世界中で大きな潮流となっています。ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏が提唱したバングラデシュの「グラミン銀行」は、貧困層向けに無担保で小口融資を行うことで何百万人もの自立を支えた世界的な事例です。また、先進国においても、環境問題の解決とビジネスを両立させる企業や、発展途上国の生産者を守るフェアトレードの仕組み、さらには障害者雇用を主軸に置きながら高品質な製品を世に送り出す企業など、多くの革新的なソーシャルビジネスが実現しています。
​社会貢献をビジネスの仕組みで持続可能なものにする。これこそが、世界が目指している新しい社会の枠組みなのです。
​これらを踏えて、私は今、人から趣味を聞かれたら迷わずに「仕事と社会貢献活動です」と答えるようにしています。
​これは決して、自分を良く見せようとして綺麗事を言っているのではありません。あるいは、ただの私の承認欲求なのかもしれません。それでも、志を同じくするたくさんの仲間たちと共に、仕事や社会貢献活動を通して世の中の役に立つための組織を作り上げていく時間こそが、私にとって人生最大の幸福を感じられる瞬間なのです。
​独りで、あるいはただ楽しむためだけに消費する時間ではなく、仲間と共に社会を良くしていく生き方。これ以上の贅沢な趣味を、私はほかに知りません。