【見えなくなって見えてきたもの――人の温もりと、今日という最高の1日】

      

【見えなくなって見えてきたもの――人の温もりと、今日という最高の1日】

​世の中はもう、お盆休みに入っているのであろうか?
​午前中は事務所で事務処理を行い、下はジャージに着替え、上はスポーツTシャツという動きやすい格好に身を包む。同行援護のガイドヘルパーと共に向かったのは、松戸市視覚障害者協会の体操サークルだ。猛暑のせいか参加者は少し少なめだった。
​少し気を抜いて体操をしていたら、先生から徹底的な指導が入る。特にストレッチの場面は大変だった。
「石橋を叩くように丁寧になぞりながら、そこをもっと伸ばして。もっと直線的に手を伸ばして!」
この動きでは腹筋を使うのだが、先生の指導は適切であるが、硬直した私の身体にはなかなか効く。ちなみに松視協の中では私が一番若い。厳しく指導されるのも若手(?)の役目であり、仕方がないことだ(笑)。60歳になって先生から真剣に怒られるのも、どこか新鮮で楽しい経験である。
​体操を終えて一旦自宅に戻り、ほっと一息ついていると顧問税理士から電話が入る。登記事項変更に伴い千葉法務局へ提出している書類の中で、私が印鑑証明書を入れ忘れていたようだ。慌てて郵便局へ走り、速達郵便で発送する。
目が見えにくいため、こうした書類の入れ忘れなどはどうしても起こってしまう。しかし障害に伴うことだからと、いちいちくよくよしていても始まらない。何が起きてもその時々に最善の努力を尽くせばいいのだ。
そこから夕食に向かったのは、流山街道沿いにある「日月堂」。千葉県東葛地域で一番美味しいと思っている濃厚な味噌ラーメンの店だ。柏、松戸、流山に住んでいる人には、ぜひ一度足を運んでほしい。死ぬほど美味しいラーメンで、車で行かないと少し厳しい場所にあるが、その価値は十分すぎるほどある。もちろん一滴の汁も残さずに飲み干した。
​お腹も心も満たされたところで、いざ松戸献灯まつりへ。
​出かける松戸献灯まつりの前に、北小金駅北口線路沿いを歩いていると青空八百屋さんが営業していた。金曜日だけの営業かと思っていたが、月曜日も開けていたようだ。ちょうど店をしまいかけていたので、おじさんに声をかけてみる。
「ご苦労様、もう終わりだね。いつもサービスしてくれてありがとう!」
すると道を挟んだ向こうから大声で返事が返ってきた。
「今日はどこに行くんだい?どこへ帰るんだ?」
「今日はね、一旦家に帰ってから、松戸献灯まつりに行くんだよ」
「気をつけて行ってくるんだよ!」
そんなあたたかい言葉をかけてもらった。
もはや私には周りの景色もほとんど見えていないが、この青空市場の八百屋さんとは、まるで昔からの友人のような心地よい絆を感じる。
​松戸駅に着いてからは、お祭りで賑わっており視覚障害者が白杖を持って大勢の人混みの中を突き進むのは、まさに試練の技である。松戸は外国籍の方も多く、日本人ならまだしも、白杖の意味を理解していない人も少なくない。お祭りともなれば元気な子どもたちも大勢走り回っている。この大混雑の中を進むのは本当に大変だった。
​会場の大きなステージではカラオケ大会が行われており、ちょうど中森明菜の「DESlRE」を歌っている人がいた。これがなかなか上手い。
以前、松視協のカラオケ大会にも参加したことがあるが、そもそも私は自分で歌うのがあまり好きではない。それに私より一世代上のメンバーが多いため、選曲が渋すぎて演歌だらけになり、正直あまり楽しめなかった記憶がある。
やっぱり私たちの世代といえば、中森明菜や小泉今日子だ。小室哲哉が時代を席巻する直前、演歌の時代から新しいポップスへ移り変わる素晴らしいエネルギーの中で過ごしてきた世代なのだ。
​松戸神社の近くまで歩くと、小さな川で灯篭流しの催しをやっていた。川のせせらぎに耳を澄ませ、川面を眺めてみる。いくつか灯篭が流れているようだが、もちろん私の目には何も映らない。
そんな時、偶然知り合いの社長にお会いした。すると、気前よく焼き鳥10本とラムネをプレゼントしてくださった。話を聞くと、その焼き鳥は1本200円もするものだという。私の顧問先であるB型事業所のイベントでは1本150円で売っていたので、200円となれば10本で2000円。実に太っぱらでありがたいことだ。
​久々に味わうラムネもとても美味しかった。昔の重たいガラス瓶とは違い、今のボトルはプラスチック製になっている。昔は中にどうやってビー玉を入れたのか不思議でならなかったものだが、今のプラスチックボトルは首の部分を回せばビー玉が取り出せる仕組みになっている。時代の変化を感じつつも、中の玉だけは昔と変わらずガラスのままであることに、なんだか少しほっこりした。
​外に出て歩いていれば、本当にたくさんの人たちと触れ合うことができる。温かい言葉をかけてくれる八百屋さん、美味しいラーメン、そして思いがけずプレゼントしてもらった焼き鳥とラムネ。
​目が全く見えなくなっても、自分の人生は結構いけてるんじゃないか、と本気で思う。
​人は一人では生きられない。人と関わり合い、手を差し伸べ合い、助け合って生きることの中にこそ、人生の本当の幸福感があるのだと実感する。そうした人間同士の温かい繋がりは、何物にも代えがたい希少で尊い宝物だ。
​だからこそ、明日からも前を向いて、自分の人生を明るく元気に歩んでいこうと思う。
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