​今日のお話は、安い服のお話です。
​今から18年ほど前、私は銀座1丁目のタワービルに本店を構え、自社のアパレルブランドを立ち上げました。最初に手がけたのは、こだわりのジーンズです。きらびやかなスワロフスキーの装飾や、立体的な刺繍、さらにチェーンなどをあしらった、細部までデザインを施した製品でした。
​この挑戦のために、社内には下記のスタッフを新規採用しました。
ファッションデザイナー:ブランドのコンセプトを企画し、服のデザインを描く
​パタンナー:デザイン画を元に、服の設計図である「型紙」を起こす
​生産管理:資材調達や工場への発注、納期やコストの管理を担う
​MD(マーチャンダイザー):売上目標に合わせ、商品計画や価格設定を行う
​VMD:店舗やECサイトの世界観を演出し、買いやすい空間を作る
​営業スタッフ:セレクトショップ等への卸売りや、自社店舗・ECの売上を拡大する 
それぞれの担当部署ごとに必要な人員を最初から配置してスタートを切りました。トップデザイナーを招くような形ではなく、経験のある若い人たちを中心に構成された瑞々しいチームでした。
​当時、本業としていたつくばエクスプレス路線の開発事業が軌道に乗っており、順調な収益を上げていたからこそ、このアパレル事業に対して数億円規模の投資を回すことが可能だったのです。
​ジーンズの後に開発したのが、女性用のハンドバッグ、名刺入れ、お財布といったアイテムです。このような形で次々と展開を進めていきました。
​商品企画を行い、試作品を作り、外国人モデルを起用してイメージ撮影を行う。工場の製造ラインを確保して製造に入り、そこから全国の店舗(セレクトショップ)へ営業マンが説明に行く。さらには店舗の陳列チェックにも徹底的に時間をかける。そうしたプロセスを積み重ねた結果、取扱店舗は日本中に広がり、最終的には10店舗を超えてきました。
​青山での会場を貸し切ってのイベントや、芸能人などのゲストを呼んだ新作発表会を開催したりもしました。パリコレやニューヨークコレクションといった、その時代の流行の最先端を追いかけながら最新のファッションを追求していたのです。ありがたいことに、私の作ったジーンズは女優の黒木瞳さんにも愛用していただいておりました。宝塚のイベントでも販売させていただき、宝塚ファンの方達に多く愛用されておりました。
​しかし、いくら必死に頑張っても、アパレル業の前には厳しい現実が立ちはだかります。
​どれほど綿密に計画しても、サイズ感の小さい服や、どうしても売れないバッグなどのデッドストック(不良在庫)が出てきてしまいます。通常のビジネスであればプロパー価格(定価)を下げて処分することを考えますが、ハイブランドイメージを維持するためには、安易にバーゲンセールを行うわけにはいきません。安売りをしてしまうと商品価値そのものがなくなってしまうからです。価格設定やブランドのプライドを守るために、私たちは売れ残った商品を泣く泣く「廃棄処分」することが多かったです。
​私のその挑戦も、あまり長くは続きませんでした。それだけアパレル業はメーカーとしての競争が激しい世界なのです
​そこで、今日の本題です。
​洋服のタカハシは、なぜあんなに安く服を売れるのでしょうか。このお店のコンセプトは、かつて私が作ったブランドとはまさに「真逆」のコンセプトです。
​アパレル業界の仕組みにおいて、どうしても現場で溢れてしまう売れ残った商品、人気のない色の商品、サイズが不揃いになったキャリー品(持ち越し在庫)などの様々な商品を、タカハシはただ同然の価格で仕入れて格安で売る。ブランド側が涙をのんで廃棄していた「業界の闇」とも言える余剰在庫を、そのまま強みへと変える素晴らしい商品戦略がここにあります。
​公式ホームページの確実なデータによると、この「服のタカハシ」を運営する株式会社タカハシは昭和29年に創業され、現在は3代目の代表取締役社長である髙橋千佳司氏が経営を行っています。髙橋社長は、すべての人が所得に関係なくファッションを楽しめる社会を目指し、「衣料品を日本一安く販売すること」を会社の理念として掲げています。
​その規模感と成長性は目を見張るものがあり、最新の店舗数は神奈川県、東京都、埼玉県、山梨県、千葉県の1都4県に広がり、現在は50店舗を数える規模にまで拡大しています。年商は108億円(2023年8月期)に達しており、地域に根差しながらも急進撃を続ける巨大なチェーンストアとなっています。
​私がかつて経験した、流行を追いかけては在庫の扱いに苦悩したメーカーとしての苦い経験。しかしその裏側には、まさにその溢れた商品や廃棄リスクを完全に逆手に取り、独自の仕入れと圧倒的な価格破壊で大躍進を続ける「服のタカハシ」のような会社が存在しています。この真逆の視点によるビジネスモデルの美事な構築にこそ、私たちが学ぶべき大きなヒントがあるのではないでしょうか。