​医療診断機器のシステム開発やレセプト計算システムの構築、そしてクリニックの経営改善に長年携わってきた経験から、日本の医療システムが抱える構造的な課題を痛感しています。
​多くの人々にとって、毎月給与から引き落とされる社会保険料の負担は年々重くなっています。現在、給与所得者の負担額を見ると、所得税などの税金よりも社会保険料の支払額の方が上回っているのが実情です。この重い負担の要因の一つに、日本における過剰な薬の処方問題が存在します。
日本の患者は通院した際に薬を処方されないと病気が治らないと思い込む傾向が強く、世界的に見ても薬への依存度が高い国と言えます。厚生労働省の統計データやOECD(経済協力開発機構)の国際比較を見ても、日本の人口一人あたりの薬剤費や処方量は諸外国と比べて極めて高い水準にあります。
​過去の事例として、自治体の財政破綻に伴い市立病院が閉鎖された夕張市のケースがあります。病院がなくなり過剰な医療や処方薬に頼れなくなった結果、市民は自らの健康管理を意識するようになり、死亡率の低下や健康寿命の維持が見られるなど、過度な医療介入を減らすことが逆に健康維持につながるという貴重なデータが得られました。
​医学的観点からも、薬剤の過剰摂取や長期服用による健康リスクは多数報告されています。特に慢性疾患において、人工的に合成された化学物質である薬剤を日常的に体内に取り入れ続けることは、解毒や排泄を担う腎臓や肝臓に大きな負荷をかけます。高齢者に見られるポリファーマシー(多剤服用)問題では、5種類以上の薬剤を併用することで副作用の発現率が跳ね上がることが日本老年医学会のガイドライン等でも指摘されています。命に関わる急性期の治療において薬は不可欠ですが、慢性期の不調に関しては食事の改善や適度な運動による生活習慣の見直しこそが最も効果的なアプローチです。
​それにもかかわらず過剰な処方が続く背景には、医療機関側の経営構造もあります。公的保険制度によって薬が安価で手に入るため患者は薬に頼りやすく、病院側も薬を処方することで患者の通院頻度を維持しているという側面が存在します。
​日本が持続可能な社会保険制度を維持し、国民の健康寿命を延ばすためには、制度と意識の両面から構造改革を進める必要があります。
​第一に、国および厚生労働省は、予防医療や生活習慣の改善指導に対する診療報酬の評価を高め、医療機関が薬を出さなくても経営が成り立つ仕組みへ移行させるべきです。
​第二に、患者自身が薬に依存する意識を改め、病気にかかる前に予防する予防医学の視点を持つことが重要です。人間が本来持つ自然治癒力を高め、運動や栄養管理によって健康な体を維持することが、自分自身の身体を守るだけでなく、増大し続ける社会保険料の抑制につながります。
​無駄な処方薬を削減し、身体への負担を減らすアプローチへと転換することこそが、個人の健康寿命を延ばし、日本の社会保障制度を守るための確実な道筋となります。